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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: フキ

フキ

 雪がはだけた地面から薹(とう)立ちしたフキは春の使者のようだ。道端にも雑草のように生える身近なフキだが、なかなか野趣もあり、用途も広い。九州から北は北海道にまで分布するが、沖縄にはない。朝鮮半島、中国、樺太にもある。

 フキはキク科の植物で、雌株と雄株がある。葉は花が終わる頃から地上に現れる。蕗の薹(ふきのとう)と呼ぶのは、頭を密集した茎のこと。それには並行脈をもつ小さな長円形の苞があるだけで葉はない。葉はすべて地下茎からでる。このような出方をする葉を根出葉とか根生葉という。盛りの時期を過ぎたことを「薹が立つ」というが、フキではまず先に薹が立つのが変っている。

 東北地方や北海道には大形のアキタブキがある。江戸時代の正徳3年(1713)にできた、日本最初の百科事典、寺島良安の『和漢三才図会』に、「奥州津軽産は肥大にして、茎の周り四五寸、葉の径三四尺、以て傘に代て暴雨を防ぐ。南方の人之を聞いて信ぜず。」との記述がある。江戸や京都にはこんな大きな葉をもつ植物はないから、アキタブキの大きいことは信じてもらえまいと著者は思ったのだろう。有名な植物学者、牧野富太郎はある著書で「其偉容は優に他の百草を睥睨(へいげい)するに足り、一面亦(また)我が日本植物の誇りでもある。」の言葉をアキタブキに献上している。

 フキの学名はPetasites japonica。属名のPetasitesは、広い縁をもったフェルト帽をさすギリシア語petasosによる。フキの仲間の大きな葉をこの帽子に喩(たと)えた。フキの仲間は、北半球の温帯に19種あり、数種が観賞や薬用に栽培される。フラグランス種(Petasites fragrans)は、薹にサクランボやバニラに似た香りがある。ヒブリドゥス種(Petasites hybridus)はヨーロッパでは中世から痙攣を止める特効薬に用いてきた。その成分がペタシンというテルペンの一種であることが1950年代に発見された。

 フキの萌えでたばかりの薹を細かく刻んで味噌で合えただけの苦味走った箸休めは春ならではのもの。茎や若葉の塩漬け、味噌漬け、砂糖漬けと、色々あるが醤油で煮しめた伽羅蕗が名高い。食用のために、古くから栽培もされていた。「水蕗」、「愛知蕗」、「赤蕗」、「八つ頭」などの栽培品種もある。

 フキの葉は大きく、質も柔らかい。紙の乏しい時代、日陰干しにしたフキの葉を落し紙に使った。東北地方からはフキにバッケ、バツカイ、バシカイなどの方言が記録されている。この意味は落し紙とのこと。フキの名も拭くにつながるかも知れない。


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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。