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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ウメ

ウメ

 旧暦の正月は、1月末から2月初めであることが多かったから、雪国を除くとウメは開いていた。春一番に咲く、芳香を含んだ清楚なウメの花は誰からも愛され、それは今に続いている。

 しかし、ウメはもともと日本にあった植物ではなく、中国から来た。これまでの研究によると、奈良時代も8世紀以降に渡来したと推定されている。『万葉集』で詠まれた花木の中ではハギ(萩)の141首についで118首と多い。どうやら日本でウメを観賞することを流行らせたのは、遣唐使で唐に留学した大宮人のようだ。

 彼らは唐から帰ると、ウメを「わが屋戸(宿)、わが苑」の主木として植え、さらに唐風に習い「梅花の宴」を催したりした。平安遷都では宮殿に「右近の橘」と「左近の梅」が植えられた。橘は今もそのままだが、ウメはいつしかサクラに変わってしまた。サクラはもともと日本に野生する植物であり、これは国産の花麗しき植物に目覚めた結果ともいえよう。だが、ウメを愛でる風潮は廃れることなく続き、松竹梅のひとつとして今に続いている。

 ウメはもともと中国でも揚子江の南側の暖かい地域に野生していた植物であったため、寒さには弱く、寒い地方では花は咲いても実がならないことが多い。また、寒い地方ではウメの開花が早い年は実成りが悪いと言い伝えられている。なぜか?

 果樹の多くは虫媒花であり、ウメもそうである。だが、ウメの花粉を特別に媒介してくれる昆虫が日本にはいない。それはウメが外来の植物であり、導入のとき一緒に昆虫までは連れてこなかったためである。ウメでの花粉媒介は、他の花の蜜や花粉を目当てに羽化する昆虫が、序でにしてくれる。だからウメだけ早く開花しても、それはあだ花に終わるというわけだ。

 ウメは、杏、李、桃、サクランボとともにサクラ属(Prunus)に分類している。この属の果実はすべて核をつくる。核はいちばん内側の果皮が木質化して、中に種子を封じたものである。梅干の中心にあって食べずに捨てるのが核で、その中に本物の種子が入っていて、これを俗に「天神様」と言っている。アーモンド(アマンド)はチョコレートやアイスクリームに欠かせないが、これは「ヘントウ」というモモの種子であるのはご存知だろうか。

 未熟のウメの果実は青梅というが、青酸を含むためこれを食べると激しい下痢をする。毒をもって毒を制するというが、昔はウメは薬としても重宝された。梅酢や烏梅がその代表だろう。塩酸や硫酸などが手に入らなかった江戸時代は、梅酢は染物やその他の工業にも重要であった。8代将軍吉宗は諸藩に梅の栽培を命じた。こうした果実採取を目的した梅園の誕生が今日の梅干の普及もつながっているのである。


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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。