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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: 台湾駆け足旅行

インドゴムノキの街路樹

 台北市の中心に植物園がある。林業試験所の管轄だ。その一隅に台湾の植物研究に貢献した植物学者を記念する名人園が造られた。3月11日は植樹節で、日本人植物学者5名の植樹が子孫を交えて行われた。若輩の私もそこに名を連ねることになり訪台した。
久しぶり目にする台湾は昨年の地震の傷跡も目立たぬ復興ぶりであり、活気に溢れているようにみえた。めずらしい植物や光景にもたくさん出合った。3つを紹介しよう。

 インドゴムノキ。日本では鉢植えにするインドゴムノキが街路樹に用いられている。ちょと見ただけではこれがインドゴムノキとは気付かないのでは。背丈は5メートルほどで高くはないが、幹は直径60センチメートル以上になる。横太りで異様な樹だ。冬も葉は生長するらしく、小形の芭蕉扇を思わせる葉が青々と繁っていた。インドゴムノキは、イチジクの仲間で、学名をFicuselasticaという。インド、東南アジア地方原産だが、野生では絶滅したといわれている。因みにいま世界でゴム採取に栽培されているゴムノキは、別名をパラゴムノキ(Hovea brasiliensis)といい、こちらはトウダイグサ科の樹木だ。観葉植物でお馴染みのベンジャミン(Ficusbenjamina)もイチジクの仲間でインド、東南アジアが原産。イチジクはクワ(桑)に近縁で、その仲間は熱帯を中心に750種もある。生長が早く、有用樹も多い。

 ヘゴ シダといえばゼンマイとワラビだが、日本同様台湾もシダの種数が多い。海で囲まれ湿度が高いうえ、温度もシダの生育に適している。南半球の島国ニュージーランドもシダを多産するので有名だ。日本のシダはほとんどが草本で、茎は地表や地中にあるため、根茎と呼ばれる。だが、シダには木本のものもある。代表がヘゴだ。茎が木化し幹となり高さは10メートルにも達する。ソテツやヤシのように切れ込みのある大きな葉を幹の頂に叢生する。葉が幹の先端にだけある木生シダは、ヤシなどと共に熱帯ならではの植物であり、その樹形や植生は熱帯のイメージつくりに一役買っている。
着生ランの栽培に欠かせないヘゴ板はこのヘゴの木化した茎を切り出したものである。ヘゴは谷間の日陰を好んで生えるが、日向に生える木生シダの代表がヒカゲヘゴだ。日陰に生えることからヒカゲヘゴと名付けられたと思われるのだが、ほぼ日向にしか見られないのは何故だろう? ひょとしたら日向に葉を叢生するので、この木生シダは日陰をつくる日陰樹として利用されたのだろうか。私には謎である。

 びんろう アジアの熱帯でよく見るのが、ビンロウ(Areca catechu)というヤシの種子をキンマという胡椒の一種の葉で包んで口中で噛んでいる光景だ。種子に石灰を塗る。噛むと朱赤色になるので、赤色の唾を吐く。台湾の南部は熱帯に共通する植物が多いが、暮らしぶりでも熱帯の風習が垣間見られる。台湾南部ではビンロウ樹の植林地が広がる。その面積から想像するに、驚くほど多量のビンロウの果実が消費されているようだ。なぜビンロウを噛むのか? ビンロウにはアレコリンというアルカロイドが含まれ、これがニコチンのように中枢神経に作用することで、快感を与えるからだ。
これまでビンロウは道端の小さな屋台で老女が売るものと相場が決まっていた。これも東南アジアに共通していた。ところが、最近状況が変わった。道沿いに半坪ほどのガラスで囲まれた小部屋が立ち、老女に代わって肌も露にした若い娘がこれを商っている。車社会である。小部屋前に止まった運転席にビンロウの入った小さな紙ケースと唾を捨てる紙コップを届けるのである。季節によってはタバコよりも高いともいう。一時ビンロウには発ガン作用が指摘されたが、台湾での商戦過熱ぶりをみていると当分ビンロウを噛む習慣は消えそうもなさそうだ。


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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。