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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: 白い花の季節

ウツギ

 気のせいか年々春が短くなったように思う。新緑も青葉の季節も駆け足で過ぎ去る。気象の方からみると、日本には夏と冬の二季しかないのだそうだ。その境目に夏とも冬とも異なる春と秋が挟まるのは、植物の開花や結実、それに連動する昆虫や小鳥など、まさに目立った生きもの活動のゆえなのである。

 新緑が過ぎ、青葉が一段と濃さを増す頃に人目に止まるのは白い花の植物ではないだろうか。草ばかりではない。樹木もそうである。道端に群がって咲くウツギの少し濁ったような白花。ガマズミの白花もほぼ盛りが重なる。イボタノキもそうか。ウツギの花が終わると、今度はアジサイの仲間のガクウツギ(別名コンテリギ)やサワアジサイ、ノイバラが花を競う。ヤマボウシ、ミズキもその頃だ。

 しかし、憂鬱な梅雨が過ぎる頃になると、日本の在来種で花を開いている植物はめっきり少なくなる。丘陵地、それに山の麓でも盛夏はほとんど緑一色になる。

 それにしても春先は黄色や紅色、紫色の花が目立つのに、どうして梅雨前は白の花が多いのだろうか。その理由は、春先の黄色や梅雨前の白色は周りから花が最もよく目立つための色であるらしい。花は受粉のために昆虫や小鳥を花に誘引する必要がある。昆虫や小鳥に最も目に付き易い色が、黄色や白色というわけである。

 ウツギはウノハナともいう。ウノハナは普通は「卯の花」と表記され、卯の季節、つまり四月の花だと思われている。旧暦の四月はいまの五月だから、一応辻褄も合う。卯月に続くのは皐月で、この月名を冠した植物のサツキは今の暦では六月の花ということになる。サツキには白花の園芸品もあるが、多くは紅紫色で、六月としては例外的な花色をしている。ウノハナのことはひとまずおくとして、この季節としては例外的なサツキの花色には説明がいる。これは、元来サツキが野生していた渓谷の岩礫地の色環境と関係していると私はみる。そこは緑一色の林地とは異なり、紅紫色の花はバックの岩礫地からは浮いてみえるのである。

 さて、ウノハナのという名前だが、これは「卯月の花」ではなく、「ウツギの花」に由来するものだろう。五月といっても上・中旬にはウツギの花はまだ目立たない。
ところで、植物にはウツギなる語尾をもつ植物が多いことをご存知だろうか。このウツギとは語は、「空木」を意味し、枝がパイプのように中空になっていることへの命名なのである。しかし、こうした植物は最初から枝が中空だったのではなく、まん中の髄の部分が生長の途中で消失して、中空となったものだ。ウツギ(アジサイ科)、コゴメウツギ(バラ科)、ミツバウツギ(ミツバウツギ科)、タニウツギ(スイカズラ科)というように系統とは関係なしに「何々ウツギ」という植物名が多数散見されるのは、中空の枝をもつことをかつての日本人が命名の上で重要視したためだろう。骨の髄ならぬ枝の髄の有無まで知り抜いていた村人、里人、山人の植物知に学ぶことは多い。


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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。