大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: サザンカ |
サザンカは、庭やその他の公共の場所で栽培されているものをよく見かける。密生して輝くような葉叢も、花の鮮やかさも、それが冬に姿を見せるということで輪をかけて珍重され、日本の観賞植物の中でも抜きんでた地位をこの植物に与えているのである。 これはシーボルトが『フロラ・ヤポニカ』(日本植物誌)の覚書きに記した一節である。 江戸時代の日本は世界でも有数の園芸大国であった。日本に野生する植物の中から観賞に値する植物が発見され、栽培され、園芸的な改良も進められたのである。サザンカもそうした日本の野生植物のひとつであるが、同じ仲間(ツバキ属)のツバキに比べ、はじめのうちは関心がいまひとつ低かったようだ。園芸品種の改良の歩みをみても一部の愛好家の手中に限られていた。こうした意味でサザンカは遅れてやって来た花木といえる。 サザンカの学名はCamellia sasanquaといい、この名付け親は出島の三賢人のひとり、ツュンベルクである。ツュンベルクはスエーデンのウプサラ大学で植物学の父と呼ばれるリンネに植物学と医学を学び、師の勧めに従って日本の植物を研究し、リンネの体系と命名法によって日本の植物を記載した。来日したのは、アメリカの独立戦争が起きた安永四年(一七七五)である。彼はサザンカだけでなく、多くの日本植物の名付け親となったのである。 サザンカは四国、九州に産し、照葉樹林に散在して生える。初めはこうした野生木を庭植えにしていたのだろう。観賞に供されるだけでなく、風除けのため茶畑の畦に植えらていた。とくに北九州では春の強風や夏の強い日差しから茶葉を保護する必要があった。サザンカの葉そのものを茶として用いることもあったようだ。茶もサザンカと同じツバキ属の植物であり、飲用の効果は茶に類似しているらしい。 先に引用した覚書きのなかでシーボルトは地元の人の言として、サザンカの花がその甘く心地よい香りを茶に移すからで、最も上等の茶はサザンカの開花期に収穫される、とも書いている。 茶畑の風除けから、人家の風除けとして生垣に用いられ、それから花木として珍重されるように転じた、という来歴史を思い描きたくなる。野生のサザンカは花は白色で、かたちも変化に乏しい。いま見る多彩なサザンカの園芸品種の育成はツバキなどとの交配による遺伝子導入によるところが大きい。ツバキとの交配種はハルサザンカあるいはカンツバキとして区別している。が、現在サザンカの園芸品種としているものにも交配に由来すると推定されるものが多い。 ツバキとは一味も二味も違うサザンカの魅力というものは近代の人の感性が発見したものといってよいのではないだろうか。 |
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