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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: シクラメン

シクラメン  フランスやオランダなどヨーロッパの都市では広場や川岸にいまでも盛んに市が立つ。花の市も多い。とくにハローウィンや、クリスマスを控えた11月は、かたちも色もさまざまな園芸植物が豊富に出回る。キクの園芸品種が多いのは意外だが、これに増して多種多様なのがシクラメンである。

 シクラメンは英語で、アルパイン・ヴァイオレット(高山のスミレ、さしずめ英国でのタカネスミレとでもいうべきか)とかペルジアン・ヴァイオレット(ペルシアスミレ)と呼ばれることがある。ヴァイオレットはスミレのことなので、何をもってシクラメンがスミレのひとつと考えたのだろう。花があるいは葉がスミレのそれに似ているからか。

 実はシクラメンはサクラソウ科の植物である。地中海地域からイランとソマリア北東部にかけて19の野生種がある。園芸に用いられるシクラメンは、Cyclamenpersicum(ペルシア産のシクラメンの意味)など、そのうちの数種から選抜や交配によって生み出されたものが圧倒的に多い。

 園芸品種の原種に当たるこのペルシア産の野生種は、円盤を厚くしたような扁平な塊茎をもつ。先にシクラメンの英名を2つばかり挙げたが、最も普通に用いられているシクラメンの英名は、雌豚のパンを意味する、サウブレッド(Sowbread)である。「豚のパン」を意味する名は英語以外でも広く使われているらしく、フランス語の通称もそうであった。

 かつて日本ではシクラメンのことをブタノマンジュウ(豚の饅頭)といった。明治一七年に出版された東京大学第2代教授松村任三博士の『日本植物名彙』には早くもこの「ブタノマンジュウ」の名が登場する。

 ここで思い出すのは、南フランスやイタリア、シシリー島などでは、シクラメンの塊茎を豚が好んで食べるのだと言い伝えられていることだ。トリュフの有無を嗅ぎ取る豚のことだから、地際にあるシクラメンの塊茎を見つけ出すことくらい豚にとってはわけもないことだろう。シクラメンには地際の茎が球形になる種から扁平でほぼ円盤状になる種まであり、その形状はたいへん変化に富んでいる。最近オランダの花市場で見たシクラメンの塊茎は直径20cmにもなる厚みのある円盤状をしていた。これを目にした瞬間になぜシクラメンを「豚の饅頭」と呼ぶのか分った気がした。

 ところで、シクラメンの属名はCyclamenと綴る。日本名のシクラメンの名もここから来ている。cyclamenという名は、ギリシア語のkylosに因むと考えられている。その意味するところは、円盤の意味である。もっとも日本では、属名の由来を熟した果実の柄がくるくるとらせん状に巻くことによると記した書もある。しかし、これはごく一部の種に限られた現象である。私としては塊茎説を採りたい。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。