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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: モモ

モモ  節分の翌日が立春である。防寒の備えも悪かった昔は、立春を迎えやれやれと思ったことだろう。

 暦の話が続いて恐縮だが、三月三日は上巳の節句である。上巳の節句は、人日(一月七日)、端午(五月五日)、七夕(七月七日)、重陽(九月九日)とともに五節供のひとつに数えられ、神に特別な食べ物を供え、自分たちも食べた。

 上巳は俗にひな祭りといわれるが、モモの節句でもある。雛壇に飾られた人形に桃花は華やいだ賑わいを加えている。ウメにもサクラにもない独特の風趣が桃にはある。

 モモは果樹としても重要だが、花を観賞する花木としても重用され、前者に適した実モモと後者用の花モモの夥しい数の栽培品種がある。花モモでは花が一重や八重咲き、紅色と白色、紅と白の咲分けるの園芸品種などがある。日本ではモモを植え花を楽しむ風は『万葉集』の時代からあったが、こうした園芸品種の登場は江戸時代になってからである。
モモはスモモ(李)、ウメ、アンズ(杏)、サクランボやシダレザクラなどと同じ、バラ科スモモ属に分類される。いずれの種も果実の中心に内果皮が硬化した「核」があり、その中に一個の種子が収まる。核のある果実なので、これを核果という。
古来中国ではこのスモモ属の桃、李、梅、杏を総称して「某」と総称した。某の字の意味は「母なる木」だが、ではなぜ某が母なる木なのだろうか。ヒントはこれらの果実が酸っぱいことにある。
酸味のある某はいずれも妊娠初期の「つわり」を癒す効果のある果実だった。妊娠の原理も解っていなかった古代、「つわり」こそが妊娠の最初の兆しであったのである。この妊娠の兆しに食べるのが某の果実であったから、某は新たな生命の誕生を祝う樹であり、母なる樹でもあったわけだ。因みに桃の字は「兆しの木」である。
モモは果肉を食べる。モモに似て核の中の種子を食べるのがアーモンド(アメンドウ)である。アメンドウはモモによく似ているが、果実は熟する開裂し、しかもその核の表面の彫刻がほとんどない。ヨーロッパではモモよりもアーモンドの方がよく栽培されている。花のときはモモとそっくりで、しかも両種の間には雑種もある。
モモの学名はPrunus persicaといい、その意味は「ペルシア産のスモモ」である。かつてのヨーロッパではモモを「ペルシアのリンゴ」といい、古代ギリシアやローマ時代にペルシアから地中海沿岸地方にもたらされたと記されたことがあったため、ペルシア起源説が定着していた。
しかし、今日では中国原産説が支持されている。その根拠のひとつに野生種は原産地やその周辺で最も幅広い変異を示すという、栽培植物の起源についてのヴァヴィロフの説である。地中海などのヨーロッパのモモは地方ごとに型が固定しているなど変異に乏しい。果実だけでも目を見張る変異を示す中国中北部地域のモモとの違いは大きい。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。