即日出荷こちらのマークが目印!即日出荷サービス

即日出荷午前中のご注文なら、即日出荷いたします!

詳しくはこちら
マイストア マイストア 変更
大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: バラ

バラ  私たちはバラから西洋の花の匂いを感じる。バラは西洋を代表する花といってもよい。バラは文化だと思う。恋人に一輪のバラの花をプレゼントするのは絵になる。それがユリでも絵になるだろうか。なるとしてもそれはかなり意味が異なるだろう。

 バラと聞いただけで、高貴なものを感じはしないだろうか。バラの花は清らかな乙女たちのイメージと重なり合い、高貴なだけでなく、清純あるいは清楚な印象をも受ける。それだけではなく多々ある。バラほどにたくさんの付加価値を与えられた花が他にあるだろうか。

 本州の北部や北海道の海岸には紫紅色の花をもつハマナスが生える。その他、箱根とその周辺にはサンショウバラのように日本には10種を超す野生のバラが生えている。初夏、山や丘陵にはノイバラの白い花が咲く季節である。全国に分布し、普段は刺だらけで嫌われもののイバラも、花の季節だけは例外的に多くの人々から好感をもって迎えられる。同じ頃各地の海辺ではテリハノイバラが咲く。こちらも白い花だが、ノイバラの花よりもひと回りは大きく、香りも高い。

 園芸店の店先を飾るかたちも色もとりどりのバラは野生にはないものである。交配をもとに改良された園芸植物であるのだが、現代のバラの育成のもとになった野生種の多くがアジア生まれなことをご存知だろうか。私たちに身近かなノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスはその中でもとくに重要なものだった。バラに詳しい人ならポリアンサ系とかヴィクライアナ系という言葉を知っていよう。

 ポリアンサとはノイバラに与えられた学名のひとつRosapolyantha、ヴィクライアナはテリハノイバラに使われたRosawichuraianaが出所。つまり、ポリアンサ系はノイバラを交配親にしたバラの系統であり、ヴィクライアナ系は同じくテリハノイバラを交配親とする系統のことなのである。ちなみにノイバラの正しい学名はRosamultiflora、テリハノイバラはRosaluciaeである。

 ノイバラは交配親に用いられるばかりでなく、とくに日本では園芸バラを接木する。多くの交配親が自生する日本ではあるが、雨が多く湿度も高く園芸バラの栽培には向いているとはいいがたい。また夏も暑過ぎる。ときどき接いだ園芸バラが枯れ、台木にしたノイバラだけが元気に育っているのを目にする。

 話を戻そう。なぜバラには高貴なイメージがともなうのだろう。その理由は古代ローマ時代にバラが貴族によって珍重され、ことあるごとに利用されたことにある。今に通じる社会の規範や風習が14世紀から16世紀にかけてのルネサンスの時代に組み立てられたのである。このとき、古代ギリシアやローマの文化の復興が叫ばれた。バラを尊ぶ風もこのとき移入されたのである。「すべての道はローマに通じる」とはバラにも当てはまることといえよう。

>> バックナンバーはこちら


Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。