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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: アサガオ

アサガオ  よく知られた江戸の風物に朝顔売りと朝顔市がある。いまでもアサガオは夏の訪れを告げる代表的な植物といってよい。

 アサガオは学名をIpomoeanil、英名をJapanesemorninggloryという。サツマイモIpomoeabatatasに近い植物で、ヒルガオ科に分類される。アサガオと同様に園芸用に栽培される種に英語でmorninggloryと呼ばれるマルバアサガオ(Ipomoeapurpurea)、ソライロアサガオときにはセイヨウアサガオと呼ばれるIpomoeatricolor、ユーガオともいうヨルガオIpomoeaalba、第二次世界大戦後に救援物資ととともに移入されたアメリカアサガオImopoeahederaなどがある。

 アサガオを園芸植物として大発展させたのは日本で、アサガオは日本を代表する園芸植物といってよい。しかし、原産は日本ではなく、熱帯アフリカと考えられている。日本には1200年ほど前の奈良時代に遣唐使によって中国から移入された。これは小輪で淡い青色した花のもので観賞のためではなく、薬用として利用された。アサガオの種子はケンゴシ(牽牛子)と呼ばれ、強力な利尿薬などになった。

 一年草のアサガオの栽培は種子を蒔くことから始まる。また、花は夜が昼間の長さより短くなってから咲く短日性で、人工的に調節しない限り、開花は夏至を過ぎて後になる。夏の暑い盛りの7月下旬から8月上旬に花を咲かすには種子蒔きは5月上旬にするとよい。

 ふつう私たちが栽培しているアサガオは直径も10センチ以下で「ろうと」型の整ったかたちの花を開くが、大輪、八重咲き、獅子咲き、牡丹咲きなど、これがアサガオかと俄かには信じ難い園芸品種も数多い。

 江戸時代以降、元禄、宝永から文化・文政、嘉永から安政、明治中期から第二次世界大戦にかけての期間にアサガオ栽培が流行したが、流行の中身も時代で異なっていた。元禄期はアサガオを植えて楽しむことが主流だったが、それ以降の流行期にはおびただしい園芸品種が登場した。しかし、宝永から文化・文政期は種子のできる系統がほとんどで、それ以降は種子のできない系統が主流となる。

 獅子や牡丹系統の園芸品種では、発芽後すぐの一部の子葉は正常な子葉にはない独特の兆候をもち、このような株を「出物」と呼ぶ。かたちも正常な子葉をもつ株はアサガオでは「正木」といい、種子もできる。出物の方は種子ができないが、出物は遺伝の法則にしたがって正木とともに一定の割合で出現する。だから出物をつくるには常に正常な株(親木)を残すことが欠かせない。

 嘉永・安政年間はまだメンデルの遺伝の法則が発見されていなかった。ヘテロ株(親木)を栽培すれば一定の割合で優性または劣性のホモ(出物)が現れることを経験から知識化していた。これは江戸の園芸の技術水準の高さを示す好例であろう。多様なアサガオの園芸品種はそれを具体的に示している。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。