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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: コスモス

コスモス  コスモスの花にはどんなに群れ咲いていても孤高を感じる。コスモスの風に揺れ動 く風情もよいが、花もまた清々しく清楚である。その整ったかたちは美しくもある。よくコスモスは「宇宙の花」ともいう。この花と宇宙とはどんな関係があるのだろう。

 それはさておき、日本で普通にみるコスモスはメキシコを原産とするキク科の草本で、学名はCosmos bipinnatusという。コスモスの仲間であるコスモス属はアメリカ合衆国のアリゾナ州から南アメリカのボリビアにいたる地域だけに分布する。26の野生種があるが、そのうちの多くがメキシコ産である。前にも書いたことがあるかも知れないが、キク科の植物はいずれも小さな花が多数密に規則的に集まった頭花という構造をつくる。コスモスも例外ではない。例外どころかその頭花が清々しく整って美しいというのが、万人のコスモスに抱く第一印象だろう。

 つまり、コスモスのふつうにいう「花」はほんとうの花にあらずで、たくさんの花が集合した1種の花序なのだ。コスモスのいわゆる「花」の中心部分は黄色でたくさんの小さな筒状の花(心花)がここに密集している。その黄色の花の周りを色鮮やかな8つの花びら状の花(辺花)が囲む。辺花にはめしべがない。コスモスの野生株の辺花は淡い紅色だが、この色を変化させ白色や淡い黄色、あるいは濃淡のある配色などをもつ園芸品種が生み出された。F1ハイブリッドも育出されている。が、ことコスモスに限り日本で万人に愛されるのは、昔からある淡紅色をした野生株に近い系統ではないだろうか。

 一年草のコスモスは毎年種まきが必要だ。霜の心配がなくなってから苗床に播種するが、地かに播いてもよい。今栽培されている多くはセンセイション系統の園芸品種で、辺花が紅色のピッキー、白のソナタ・ホワイト、薄黄のイエロー・キャンバスである。コスモスとは別種のキバナコスモスCosmos sulphureusも栽培される。

 よく耳にする言葉にカオスがある。カオスとは混沌を意味するが、それとは正反対の調和と秩序をいう言葉がコスモスなのである。こうした言葉を用いた古代ギリシア人たちは、規則的に動く星座に飾られた宇宙を調和と秩序を代表するものと考えいた。それで、コスモスの語は宇宙をもいうようになり、コスモスの属名を与えられた植物コスモスも宇宙に結び付くことになったといえる。もっともギリシア語のコスモスの語義は広い。美しいという意味さえある。しかし、この美しさは調和や秩序をもつことからくるものである。よくもコスモスの花にふさわしい学名が与えられたものだと思う。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。