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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: クリ

クリ

 秋が近づくとクリの実がなるのが楽しみだ。クリは樹姿も好い。丈はあまり伸 びないが、枝が横に広がって、ずんぐりとして大きな樹冠をつくる。

 森の国、日本では、本州や四国、九州の平地に近い低山や丘陵地で、かつては いたるところでクリの林がみられたものである。いまでも消滅したわけではない が、都市の近郊ではクリを目にする機会はぐっと少なくなってしまった。

真夏にはよくクリの木陰で休んだものである。その大きな群れた葉が風にゴワゴワと音を立てるを聞いているのが、とても気持ち好かった。クリの葉は細長く間延びした感じがあり、縁には刺状の突起があって、しかも質が厚い。いかにも無骨な印象がある。しかし、コナラやミズナラともちがう、またシデやブナともちがう独特の雰囲気は低山の風景によく合致していたのである。私は好きだった。

 クリは落葉広葉樹のひとつで、ブナ科に分類され、日本と韓国に分布する。学名をCastanea crenataという。Castaneaはクリの仲間であるクリ属をいう。クリ属には世界に10種があって、いづれも北半球の温帯地域に分布する。果樹として、また街路樹などとしても栽培されるし、家具などの用材としても優れている。

 クリの花は小さい。花びらは小さく目立たない。花には雌雄の別があって、雄花は多数密生して長さが10から15cmにもなる長い花穂になり、その花穂の根元の部分に数個の雌花が付いている。つまり圧倒的に雄花が多い。6月になるとすぐにクリのものだと判る特有の臭いを発散するので、クリの咲いたことを知るのである。

 ヨーロッパにはヨーロッパグリがあり、用材や観賞樹となる一方で果実は食用として重要であった。その点は日本のクリと同じである。学名をCastanea sativaという。かつてはヨーロッパ中にごくふつうに見られた木であったと考えられている。Castaneaという名前はクリの古いラテン語の名前で、一説ではクリが産することで有名なテッサリアの町、カスタニア(Castania)の名前からきているともいわれている。

 ドイツ文学には、カスタニュエンの森、というのがよく登場するが、それはクリの林のことである。田園風景といえばクリの林が象徴するものであった。ために田園を好んで描いた田園画家が、あまたのクリの林の風景画を残している。日本ではクリの果実は山の幸である。ヨーロッパでは、その果実はマロンと呼ばれ、焼いて食べたり、粉にひいてパンやケーキにもした。フランスではシロップに漬けたマロングラッセが名高い。日本の栗羊羹もこれに匹敵する名品といってよい。

 中国のクリCastanea mollissimaは、シナグリというが、ふつうは「天津栗」といい日本ではその焼栗がよく売られている。また、最近まで北アメリカでもクリは普通に見られた。が今はほとんど見られない。オランダから伝わったウィルースによって枯死したためである。

 日本でのクリ栽培は観賞というよりも主には果樹としてである。果実には大きさでかなりの変異がみられる。野生の樹は果実が一般に小さく、芝栗と呼ばれている。

 ところで、クリにはクリタマバチという蜂が卵を産みつけ虫こぶをつくり食害する。1941年にこの食害が発見されたが、その後はクリタマバチに抵抗力のある栽培品種が登場している。他にもクリには害虫が多い。

 見方を変えれば、どこにでもふつうに生える野生のクリは、光合成で生み出した葉や樹液などの一部を昆虫などのいろいろな動物に分かち与え、仲良く暮らしてきたといえよう。私にとって身近なクリはこうした自然界のしくみをいろいろ教えてくれた木でもあった。今でも樹陰で休みながらクリの観察から多くのことを学んだ頃が懐かしい。


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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。