大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
|
テーマ: キク2 |
キクのいわゆる「花」は花序で、たくさんの花が放射状に密集している。花弁が長さ10センチメートルを超えるものから1センチメートル足らずのものまで、花弁も管状にもなれば舌状にもなるなど、その変異の広さには目を見張るものがある。 キクの栽培が普及したのは、見栄えがあるばかりではない。作りがいもあるからだ。このキクの見栄え・作りがいはともにキク自体の大きな変異性によるといってよい。懸崖と大輪のキクが同種の植物とはにわかには信じられない。 キクを用途でみると、鉢植え観賞菊、花壇用の花壇菊、切り花やポットマム用の生産菊に大別できる。こうした多種多様な用途別に、無数とでもいいたいほど、多数の園芸品種が作り出されている。 キクの数百もある園芸品種はどう分類されるのだろうか。現在い広く用いられているのは、自然状態での開花期と開花の特性を組み合わせた分類法である。この方法では、キクの園芸品種は、秋菊、寒菊、夏菊、8月咲き菊、9月咲き菊、岡山平和型の6群にまとめられる。 この分類はキクの開花が日長の影響を強く受けることを重視したものである。しかし、キクでは日長の調節により開花期を変えることが容易である。こうした人工開花によって生産されるキクが増えたことで自然状態での開花期が判然としなくなっている。このことが、一般の人に、この自然状態での開花期に重きをおいた分類法を判りにくいものにしている。 これとは別に、キクの園芸品種を、頭花の直径を基準に大輪、中輪、小輪、洋菊に分類することも広く行われている。これは見ればすぐ判るところが長所だ。直径が18センチ以上のものが大輪、9センチ以下が小輪で、その中間が中輪である。 〔大輪菊〕 大・中・小に大別される日本で発達したキクの区分けには、独特の呼び名が用いられている。大輪菊でいえば、厚物、厚走り、管物、一文字、などがそれで、こうした特徴を共有する園芸品種がひとつのグループに分類される。 「厚物」は頭花の中心が伸長して円錐形になるもので、それを‘盛り上げ咲き’という。「厚走り」は頭花の下方の外周に走り弁が出るものである。その代表は‘大掴み’で、またの名を‘掴菊’あるいは‘奥州菊’という。「管物」は個々の花が管状のもので、これは管の大小により‘太管’、‘間管’、‘細管’、‘針管’を分ける。「一文字」は舌状花が一重で、かつ幅広いものをいう。 〔中輪菊〕 中輪菊は篠作りや株仕立てに好んで用いられるが、古くから地方ごとに特色のある園芸品種が作出されいた。ために、中輪菊では地方名が同時に特徴を表す命名になっているものが多い。 「嵯峨菊」は花が細く針状で直立し、刷けのような姿になる。「伊勢菊」は細長い管状で、しかも縮れが入り乱れる。「江戸菊」は頭花の中心部分の花配列が乱れ、渦巻き状になる。「肥後菊」では一輪の舌状花が水平に広がる。 〔小輪菊〕 小輪には花自体を楽しむだけでなく、作りや仕立てなど全形の観賞がすることが加わる。花壇や鉢植えにもよく、切り花や生け花にも利用される。仕立てには懸崖のほか、盆栽仕立てもあり、菊人形も流行っている。花のかたちでもいろいろなものがあり、アザミ咲き、七々子(魚子)咲き、貝咲きなどの名がある。 キクの園芸品種をすべて網羅することはとてもできない。主なグループをあげるだけでもたいへんである。今回はふれなかったが、イギリスやアメリカで栽培・改良された品種を総称して洋菊といっている。最後に甘菊すなわち食用菊のことを記しておこう。 食用菊のほとんどは、頭花の直径が10センチ未満で小菊に含められるが、頭花はすべて舌状花からなる。葉とともに香気があり、苦味が少ないことが重要である。花は黄色のものが多いが、紅紫色、紅色のものもあり、主として本州の日本海側で栽培されている。 キクを食べるわけではないが、中国では酒を満たした杯に菊の花を浮かした菊酒も広く行われる。また、頭花を乾燥した「菊茶」が中国で売られている。飲用すると、頭痛や疼痛などによいといわれている。キクにこうした薬効があるかどうか、定かではないが、その芳しい芳香は気分を爽快にしてくることは確かだ。 |
>> バックナンバーはこちら |
|