大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: ビワ |
冬に花咲く木は多くない。だから珍重され、園芸植物になっている。ツバキ、サザンカ、ヤツデがそうだ。 ビワの花も冬に咲く。キツネ色の毛に被われた毛むくじゃらな花枝に白い5つの花弁が目立つ。直径は1センチほどだが、香りがよい。 西日本では野生状態で生えているビワだが、これは栽培から逃げ出したものだと考えられている。ビワの原産地は中国の江南地方。日本に渡来したのはかなり古く、平安時代に表わされた『本草和名』のような書物にその名が載っている。温暖になったためか東京付近でもよく目にするようになった。小鳥が種子を散布し、その分布を広げているのだろう。種子は容易に発芽する。 ビワの名前は中国の枇杷を音読みにしたもの。枇杷は琵琶の意味で、その葉が楽器の琵琶に似ているという説がある。枇の字は対になって並ぶことを意味する。枇杷の杷は農機具の「さらい」のこともいうが、ここでは柄の意味である。してみると、枇杷の名前は、ほぼ2列に果実が枝に付くビワの特徴に対応している、ともいえる。 ビワは学名をEriobotrya japonicaといい、バラ科に分類される。属名のEriobotryaは軟毛の生えたブドウという意味で、表面を軟毛に被われた果実の特徴から名づけられた。中国原産なのに日本のという意味のjaponicaの種小名をもつのは、日本産のものに命名されたためである。命名者は江戸時代に来日したツュンベルクで、彼はビワが中国渡来であることを知ることはできなかった。 ビワの仲間には26種があり、ヒマラヤから中国中部を経て台湾に、そして南はインドネシアに分布している。このようにビワはアジアの木であるが、果樹として栽培されるのはビワだけのようだ。原産地でもないのに「日本の」と名づけられたビワは、英名もloquatの他に、 Japanese medlarという名前もある。英名で愉快なのは中国と日本を意味する China and Japanだろう。 欧米人にとってアジアをイメージする色は黄色である。黄色人種から来ているイメージだが、そこには黄色の果実が多い。ときには中国人(広東の)をもいうマンダリン(ミカン)、柿、そしてビワがそうだ。 冬に咲いて比べるのはむずかしいが、ビワはサンザシやシャリンバイによく似ているが、果実の大きさに比べて巨大過ぎる種子が中央に鎮座する。ビワを口にしながら、「種子がなければ」、と思った人も多いだろう。 ビワは葉も薬用に利用される。裏面の毛を除いて乾燥したものが「枇杷葉」で、その煎じた液は「枇杷葉湯」といい、清涼健胃薬に利用された。とくに昔は暑気払いよく用いられた。枇杷葉は入浴にもよい。肌が滑らかになるという。花は目立たないが、その芳香、冬も緑の大きい葉、その味わいのある果実等々、ビワは園芸植物としても優れている。最後にその材も木目が美しく、杖、印材、櫛などに利用されることを付記しておこう。 |
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