大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: ナノハナ |
アブラナ科の植物は 四枚の花弁が十の字状につく花をもち特徴的だ。古くから人々に認知され、食用に利用されてきた。それにカラシ油配糖体がつくられるため芥子やワサビなど独特の香りもある。 にわかには信じてもらえなさそうだが、菜っ葉、ナタネ(菜種)、菜の花、カブ(蕪)は同種の植物なのである。ハクサイもこの種の一員である。学名をBrassica rapa(和名はアブラナ)という。アブラナの仲間には30を超える野生種があるが、資源として重要な種が少なくとも他に3種ある。キャベツ(Brassica oleracea)、セイヨウナタネ(Brassica napus)、クロガラシ(Brassica nigra)である。そのひとつキャベツもその花はナノハナと瓜二つで、一目すればキャベツがアブラナの仲間であることがはっきりする。 日本でいまアブラナが重要なのはカブや菜っ葉などの野菜としてであるが、世界的にみると種子から搾る油の需要も大きい。アブラナの名前も「油菜」からきている。また、油自体は「菜の花」の種子から採る油なので「菜種油」という。ナノハナの種子から簡単に油が絞れる。中国やヒマラヤの僻地で油といえば菜種油だった。 電気がなかった時代、菜種油は照明用にも欠かせなかった。行灯の油である。日本でも最近まで一面黄色の菜種畑が連綿と続く光景が春の田園であった。菜種の花、いわゆる菜の花は万人に親しみ深い花であった。ここで注意したいのは、明治時代以降になって油用にナタネに代わりセイヨウナタネが普及しはじめたことである。 セイヨウナタネはナタネとキャベツ双方の遺伝的特性を合わせもち、油の収量も大きく普及した。アブラナの類は地中海地方で野生種から改良されたものである。アブラナは古くに中国に入り、そこで新たな改良が加えられ、日本にそれが渡来した。日本では葉を食用とする系統をカブナ(蕪菜)、一般には菜っ葉と呼んでいる。 菜っ葉と蕪は兄弟で、根が肥大するものが蕪として選抜された。漬物として有名な「野沢菜」も、江戸時代の宝暦の頃、信州の或る寺の僧が都(京都)から持ち帰った「天王寺蕪」が元祖だという説がある。野沢菜も作り方次第で蕪のように膨らんだ根ができる。 ナノハナは「菜っ葉」の花の意味だが、最近は菜花ともいう言葉を用いられる。菜の花は春に咲く。木のサクラと並び身近かな春の花といってよい。観賞用には「菜の花」だが、それを食用とするときは「菜花」の名称が広まった。菜花は分類学上ナタネではなく、セイヨウナタネの栽培品種である。菜花の普及以前にセイヨウナタネも菜っ葉として利用されていたのである。なかでも北関東の心摘菜が有名だ。蛇足だが、1955年からセイヨウナタネ系の菜っ葉の改良が計画的に進められ、その成果として1971年に宮内菜が登場し、以後全国に普及するようになった。 さて、花を食べる野菜を花野菜というが、中国では花菜または花椰菜という。花野菜で思いだすのはカリフラワーやブロッコリーだろう。ともにナノハナに近縁なキャベツの栽培型である。 あらゆる栽培植物の中でキャベツほど多様な変形を遂げた植物は他にない。キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ケール、コールラビ、サヴォイキャベツ(縮緬キャベツ)、これに観賞目的に改良されたハボタン(葉牡丹)が加わる。こうしたキャベツ一族の多様さがたったひとつの野生種から生じたとは信じ難いほどだ。 花盛りの菜の花畑は一面濃黄色の花に埋まる。アブラナ属の植物は茎先が枝分かれしてそれにたくさんの花が着く。こうした花着きのよさを極端なまでに推し進め、しかも花が着く枝(花序枝)の部分も肥大化させ、一緒に食べるようにしたのがカリフラワーやブロッコリである。 菜花にはまだブロッコリーやカリフラワー化したものはない。むしろ野生種の未熟な摘み花を食するような野趣がある。海の幸、山の幸を大切にする国ならでは野菜といえなくもない。 |
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