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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ライラック

ライラック  日本の園芸の特徴は花木が多いことである。ヨーロッパや北アメリカ東部の温帯でも花木は少なくない。代表にライラックを選ぶ人もいるだろう。一番さわやかな季節に咲くライラックの花はファンも多い。日本でも札幌はライラックは市の花として愛されている。

 ライラックはモクセイ科に分類されるハシドイ属の低木で、属名はSyringa。この名はギリシア語で笛やパイプをいうsyrinxに由来する。歳を経て髄の抜けた枝をパイプとし、笛とした。もっともギリシアでsyrinxと呼んだのはライラックではなく、バイカウツギだったらしい。

 ライラックは英語のlilacによるが、フランス語ではlilasとなり、読むとリラである。つまり同じ植物を日本ではライラックといいリラといっているのだ。輸入文化のなごりであろう。ちなみに中国語では丁香。

 日本にも野生のライラックがある。ハシドイ(Syringa reticulata)とマンシュウハシドイ(Syringa amurensis)である。ハシドイの語源はよく解らない。アイヌ語かも知れない。

 古くから栽培されてきたのはムラサキハシドイ(Syringa vulgaris)である。この種は前年に伸びた枝の葉腋に花序の芽ができる。花序にはたくさんの花がつくが、先端の芽は枯死するので、普通は花序が横広がりになる。本来の花色は色名にもなっている淡い紫色である。

 もともとハンガリーなどヨーロッパの南東部から西アジアにかけて分布していた。それがヨーロッパ西部に伝えられ観賞されるようになったのは16世紀になってからと考えられる。ヒアシンスやチューリップが移入されるのと同じ頃である。絵画には17世紀から登場するが、マネやモネ、ゴッホ、マチスらが描いて有名なるのは19世紀以降で、八重咲きや多様な花色の園芸品種が登場する後のことである。日本への移入は明治中期といわれている。

 多数の園芸品種があり、一重だけでなく、八重咲きの、それも白、濃赤色など様々な花色を楽しむことができる。また、東京などの暖地ではライラックの栽培がむずかしかったが、イボタを台木に利用することでとても容易になった。鉢植えも登場し、ライラックは暖地でもますます身近な植物になっている。

 ハシドイの仲間には30種ほどがある。こうした野生種を多く収集している植物園や樹木園が寒冷地には多い。有名なのはアメリカ合衆国マサチューセッツ州にあるハーバート大学アーノルド樹木園だろう。この樹木園は日本など東アジア地域の樹木コレクションでも有名だが、ライラックのそれはつとに名が知られている。毎年5月の第3日曜日はとくにライラック・サンディと呼ばれ、多くの市民が集いライラックの花を観賞し楽しむ。

 早春というよりも十分に春のぬくもりを肌に吸い込んでの一日である。ライラックの開花の頃には、いくら晩雪があるとはいえ、雪のふる心配もなくなった安堵感が漂うように思えてならない。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。