大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: トマト |
トマトは学名をLycopersiconesculentumという。esculentumは食べられるという意味。ナス科の植物で、原産地はアメリカ大陸。トマトの名は西暦1000年頃メキシコに住んでたアステカ人がトマトを指した言葉に由来するといわれている。 アメリカ大陸原産の植物であるジャガイモ、トウモロコシ、サツマイモ、カボチャ、トウガラシ、タバコなどは、すべてコロンブスがアメリカ大陸を発見して後にヨーロッパに伝わり、そこから世界中に広まった。そのうちトマトがヨーロッパに伝来したのは1523年頃らしい。コロンブスの新大陸発見から86年後である。 日本にトマトが伝わったのは江戸時代で、1709年に貝原益軒が著わした『大和本草』に、「唐がき」として記述されている。しかし、野菜として栽培するのは明治時代に入ってからで、まず北海道開拓使が今の東京の新宿御苑の前身である内藤勧業寮で試作した。 トマトには特有の強い臭みがあり、しかも果実の色が鮮やかな赤や黄色だったので、トマトははじめ有毒だとみなされた。何しろ植物学の創始者といわれるリンネはトマトの学名にlycopersicumの名を与えた。その意味は「狼の桃」。野菜としての真価が理解されるまでかなりの時間がかかった。トマトが食品として利用されたという記録は18世紀中葉にいたってようやく現れる。 日本でもトマトの果実は毒々しいと思われたふしがある。味にも一種の青くささがあり、それを消すためにわざわざ砂糖をかけて食べたりもした。 一口にトマトといっても用途別に実に多数の栽培品種がある。概して、調理用のトマトは酸味が強い。トマトの品種改良は19世紀以降に始まる。イタリアから北上してイギリスに広がり、そこで低温や少ない日照条件下でも栽培せきる早生型の栽培品種が生み出された。また同じ頃にアメリカにも渡り多様な栽培品種が誕生した。 イタリア系の栽培品種は、果実が鮮紅色で、果肉が厚く、水分の少ない固形物に富むのがの特徴だが、こうしたトマトは料理に、また水煮やピューレ、ケチャップ、ジュースなど加工用にも適しているが、水気が少なくサラダには向かない。 「サン・マルツァーノ」、「ローマ」、日本で育成された「珠玉」、「くりこま」、「ふりごま」などがこの系統。イギリス系は酸味が強く、トマト特有の青臭さが強い。「ベスト・オブ・オール」や「プリンス・オブ・ウェールズ」が有名だ。 日本でトマト革命をもたらしたといってもよいのが、「ポンテローザ」。昭和時代初期に入ったアメリカ系の栽培品種で、トマト臭が少なく、甘味があったことが日本人の味覚に合致した。「世界一」、「ファースト」、「豊玉」などは「ポンテローザ」から選抜された優良品種。「ファースト」は日本で野菜店が品種名を付して売った最初のトマトだったが、「桃太郎」トマトの出現で衰退した。「桃太郎」は糖度が高く甘みがあるだけでなく、適度の酸味もあり、そのバランスが優れているだけでなく、完熟した後にも変質が少ない。「桃太郎」の出現によってトマトは完熟した果実を出荷するようになったし、甘熟という言葉も生まれた。 サラダ用トマトのもうひとつの主流はチェリートマトで、日本ではミニトマトとかプチトマトという。トマトの原種はこのミニトマトに近い形状と大きさの果実をもっていたと考えられている。日本では1980年代になって急速に普及した。小粒で切らずにそのまま食べられる利点がある。球形の果実のものが日本では主流だが、洋梨形やスモモ形のものもあり、果色も赤のほか、橙、黄色、紅色など変化に富んでいる。ペアートマト(チェリートマト)は、10以上もの果実が軸の左右に互い違いに鈴なりについた栽培品種。 トマトはジャガイモやナスなどのナス属(Solanum)の植物に近縁である。トマトに似た果実をもつ種もある。ペピーノはそのひとつで、生の果実がサラダにも利用される。学名をSolanummuricatumといい、南アメリカ原産で、ニュージランドから日本に輸出されている。ナランジラ(学名はSolanumquitoense)も南アメリカ原産で、直径5cmほどの球形で、橙黄色の果実が、甘くさわやかな酸味があり、サラダなど生食や清涼飲料やシャーベット、パイあるいは砂糖漬けなどに利用する。日本には主にニュージランドから輸入される。 タマリロも南アメリカ原産で、ニュージランドから輸入している。キダチトマトとかトマトノキと呼ばれることもある。タマリロはトマト属やナス属に近縁なタマリロ属の種で、学名はCyphomandrabetacea。果実は卵形で、果汁が多く、特異な酸味と芳香がある。サラダのほか、ジャム、プリザーブ、チャツネーやプリーなどにする。トマトやそれに似たナス属の果菜は、葉を中心としたサラダに彩りを添える素材として今後もさらに多くの需要が見込まれている。とくにまだ日本では普通とはいえないペアートマトやチェリートマトは今後の有望株であろう。 |
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