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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: 月下美人

月下美人  太陽と月はとかく対比されることが多い。月には太陽にないロマンを感じる人も多い。闇を照らす月明かりはどこかはかなく、かよわい。

 また、月は夜の象徴でもある。月明かりに咲く夜の花が熱帯には多い。日中うだるような暑さは人間だけでなく、他の哺乳類や鳥、昆虫にとってもきびしい。夕方から明け方にかけての夜に活動を移す動物が熱帯には多いのである。昆虫やコウモリなどに花粉の媒介を頼る植物もこうした動物の活動に同調している。

 月明かりがあるとはいえ、夜は複雑微妙な色彩の違いが判らない。昼咲く花のように多彩な色合いで花の所在を動物たちに示すことはできない。やっても効果がないのである。せいぜい白や淡い黄色など、月明かりに浮いてみえる色の花にすることくらいだ。色に代わって夜咲く花に役立つの芳香である。熱帯の夜はどこからともなく甘酸っぱい香りがするが、これは花が発する芳香といってよい。

 日本の花々の花粉の媒介に大役を果たしているマルハナバチやミツバチ、ハエなどの仲間は昼間活動する昆虫たちだ。昆虫で夜間活動するのは蛾の仲間である。蛾は長い口吻をもっていて、それで花から蜜を吸う。日本にもある夜咲きの花、ユウガオ、カラスウリ、マツヨイグサ(月見草)の仲間がいずれも花の基部が管状になり、蛾が蜜を吸いやすいかたちをとっている。

 熱帯では蛾だけでなくもっと大きな動物が花粉の媒介に参加している。とくに夜咲く花にとって重要なのはコウモリである。果物コウモリは果実や蜜を餌に生きるコウモリで、小笠原諸島のオガサワラオオコウモリや西表島のヤエヤマオオモウモリなどが日本では少ないこの仲間である。熱帯には果物コウモリが多い。コウモリが花粉を媒介する花は強い芳香を放つのはもちろんだが、大きく、しかも拡げた翼が重ならないように花は十分離れて咲く。花もコウモリがつかまっても折れない丈夫な柄をもつ。

 新大陸の熱帯に産するサボテンの仲間にはコウモリによって花粉が媒介される種類が多いのである。

 月下美人もそのひとつで、熱帯アメリカに分布するクジャクサボテン属(Epiphyllum)の1種。メキシコからガテマラにかけて分布する。学名はEpiphyllumoxypetalumで、1840年にはヨーロッパの雑誌に図示されているから、かなり古くから栽培されていることが判る。茎は扁平で、高さが3mにもなり、よく枝分かれする。

 強い芳香があり、7月から11月にかけて開花するが、花の直径は10数cmにもなり、白色で人目を引くためだろう、月下美人の開花のことが毎年テレビや新聞のニュースで話題になる。

 花は夕刻から開き始め気温が低いと朝方まで咲いて萎れる。らせん状につく多数の花びらをもつが、下方のものは萼片様で平開し、上方のものは次第に直立し、花弁様に変わっていく。しかも下方の花びらは線形で開出するが、上方のものは幅に広く直立する。

 クジャクサボテンの仲間や近縁種は多く、いずれも月下美人に似た花をもつ。花の色もピンクや赤、クリームなど変化に富む。なかでも「夜の女王」は学名をSelenicereusmacdonaldiaeといい、ホンジュラスの原産で、月下美人に似て直径30cm以上になる白あるいはクリーム色の花を開く。これはサボテンの仲間では最大級の花で、夜の女王の名にふさわしい。

 サボテンの仲間は、小さな球形のサボテンであっても、花はからだに似合わず大きい。どのサボテンも花色が抜けるように透明な感じがするのはマツバギクなどと共通する色素(ベタレイン)による。多肉で刺だらけの様態は、砂漠を中心とした極暑と乾燥という昼間の過酷な環境への適応とすれば、その巨大かつ幻惑的な花は活動的な熱帯の夜に適応したサボテンのもうひとつの顔といってよいものである。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。