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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: キキョウ

キキョウ  秋の七草のひとつキキョウ。しかし、私にとってのキキョウは夏の花だ。キキョウは高原の夏に深く結びついている。私が初めてキキョウに出会ったのは、長野のとある高原だった。日当たりの良い草群に、横向きに咲く、青紫色の鐘形のキキョウの花を初めて目にしたときの光景がいまも思い浮かぶ。周りのどの花よりも整ったその花はとても清楚にも思えた。私はいまもキキョウの花が好きだ。キキョウは日本から朝鮮半島を経て中国東北部に分布する。いまは野生のものをみることは少なくなったが、昔は平地や丘陵地、山地の草原などによく生えていたらしい。

 多年草でチョウセンニンジンにも似た太い根をもつ。根は古くから薬に使われてきた。今日でも去痰薬、化膿症や扁桃腺炎などに効き目があり、漢方ではよく利用されている。こうした薬効があり、しかも花が大きく魅力的だったキキョウは、古くから多くの人にその名前が知られた植物のひとつだったといえよう。だからというわけではないが、家紋にもなっている。キキョウの家紋といえば有名な人物は明智光秀だ。光秀は土岐氏の出身で、キキョウの紋は土岐氏の家紋でもあった。また、5裂した花冠は紋章化され校章などにも使われてもいる。

 キキョウの学名はPlatycodongrandiflorus(Jacq.)A.DC.で、キキョウ科の植物だ。属名のPlatycodonは広いことを意味するplatysと釣鐘codonを組み合わせた名前で、キキョウの特徴的な花型によっている。キキョウは特異的で類似する種が他になく、キキョウ属にはキキョウだけが分類されるのである。種小名のgrandiflorusとは「大きな花の」という意味である。

 園芸では庭などに地植えにして利用するが、いまは切花用の栽培も盛んである。二重咲きになったフタエキキョウ、白花のシロバナギキョウなどが有名だ。また、切花用の早生の「さみだれ」などのいくつかの園芸品種がある。しかし、知名度も高く花も見栄えがする割りにキキョウに園芸品種が少ないのはなぜだろう。その大きな原因はキキョウに類似する野生種がないことがある。これがキキョウの園芸的な発展を妨げたといえる。園芸的な多様さは類似種の交配などによって導かれることが大きいからだ。

 花屋でトルコギキョウをみることが多くなった。名前からキキョウの1種のように思われがちだが、これはリンドウの仲間、つまりリンドウ科の植物だ。学名はEustomagrandiflorum(Raf.)Shinnersで、アメリカ合衆国のネブラスカからコロラド、テキサス州にかけて分布し、メキシコにも産する。トルコとは何の関係もない。英語はテキサスのキキョウを意味するTexasBluebellまたはチューリップ・リンドウの意味のTulipGentianである。

 キキョウとトルコギキョウのようにキキョウ科とリンドウ科の植物は似ているところが多いが、キキョウ科の花は多くが子房下位だがリンドウ科のそれは子房上位である。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。