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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ザクロ

ザクロ  いびつな球形をした果実もそうだが、黄味をおびた赤色の厚く光沢のある果皮、それに完熟すると裂けて、その裂け口からのぞける宝石のような種子など、ザクロには一度目にしたら忘れがたい特色がある。これに濃い赤橙色の花も魅力も加えてよい。

 ザクロはイラン高原からインド西北部の乾燥地を原産とする果樹で、中国には漢の時代以降に西域から伝わったといわれている。日本には平安時代に入った。学名はPunica granatumで、ミソハギ科に分類される。種小名のgranatumは粒状のという意味だが、属名のPunicaは「カルタゴ(人)の」という意味である。これは、ローマ時代の有名な博物学者、プリニウスがザクロに用いたとされる「カルタゴ産のリンゴ」malum punicumのpunicumがそのもとになっている。

 ザクロを漢字では柘榴とふつうは書く。安石榴あるいは石榴の表記もある。榴は瘤で、その果実が瘤(こぶ)のようにみえることから与えられたものらしい。また、安石榴の安石は安石(安息)国すなわちペルシャのことであり、ザクロがペルシャいまのイランから来たことを表わしている。もっとも中国では古くは塗林あるいは奈林ともいったそうだが、これらはザクロを指す梵語darimaの音訳ということだ。

 ザクロは日本では落葉樹だが、亜熱帯地方では葉は落葉せず常緑になる。高木とも低木ともなる。ここで高木と低木とのちがいにふれておこう。それは単に樹高だけによるものではないことが存外知られていない。高木は幹があり、樹冠の下を人が歩いて通ることができる木をいう。一方低木は幹がはっきりせず、樹冠の下を歩くことなどできない木をいうのだ。英語のtreeは普通は高木をいい、低木はshrubである。日本語の木に当たる言葉はwoody plantsあるいは trees andshrubsである。

 ザクロの葉はふつう枝に対生につくが、輪生することもあり、縁には鋸歯がない。花が現われるのは6月頃で、5から8つの赤橙色の花弁をもつ。花は多数の雄しべをもつが、雌しべは1つで、子房には多数の胚珠が詰まっている。この胚珠が熟して種子に変ずる。

 ザクロは果樹として世界で広く栽培されるが、日本では多くない。日本でのザクロの栽培は観賞を目的とすることが多い。多数ある雄しべが花弁に変じてできた八重咲きの品種を、一重で結実する‘実ザクロ’にたいして‘花ザクロ’と称している。花ザクロには花が赤色の「朝日」、白色の「水晶」や「白牡丹」、樺色の「東洋照」、絞りの「天絞り」、咲き分けする「錦袍榴」などといった園芸品種が知られている。これとは別にヒメザクロとか朝鮮ザクロあるいは一歳ザクロなどと呼ぶ矮性で四季咲きの系統があり、観賞用に栽培されるが、難点は寒さに弱いことだ。

 ザクロの種子には甘酸っぱいさわやかさがある。それに透き通るような色合いも美しい。宝石の石榴石の名はその色合いがザクロの種子に似ていることから名付けられたのだろうか。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。