大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: カキ |
カキはカキノキ科に分類される落葉高木であるが、この仲間(カキノキ属)は約475種もあり、世界の熱帯を中心に分布している。落葉樹である日本のカキだけをみていると、カキが熱帯の木であることにはなかなか理解がいかない。熱帯のカキノキ属でよく知られているのは黒檀だろう。黒くて硬いその材は昔から各種の用途に欠かせなかった。 カキノキの仲間を英語ではebonyという。お年寄りの人なら、硬質の人造ゴムをいうエボナイトという言葉をご存知だろう。このエボナイトの語は黒くて硬い黒檀から来ているのだ。 カキは学名をDiospyroskakiという。属名のDiospyrosはギリシア語で、神をいうdiosと穀類とか小麦を意味するpyrosに由来し、神が食べるものを意味する。日本のカキも干し柿にするが、中近東や南アジアでも干して食するカキの仲間がある。干し柿はデーツ、つまりナツメヤシの干した果実に類似しており、保存もきき、甘味もあり、昔から愛好されたのだ。 蛇足だが、日本ではデーツはそのまま食べる乾燥果実としては普及していないが、世界でも冠たるデーツの輸入国なのである。お好み焼きに用いるソースの原料にデーツは欠かせない。湾岸戦争のときはその輸入が止まってお好み焼き屋が困ったといわれている。 カキには甘柿と渋柿がある。甘柿はそのままでも果実は食べられるが、渋柿は渋抜きをしないと生では食べられない。甘柿の方が便利なのにどうして渋柿もあるのか不思議に思うだろう。50年前のカキの需要は今以上に大きかった。その需要は果実の食用ではなく、柿渋の生産用に植えられていたのである。 柿渋はまだ未熟な渋柿を搗き砕き、水を入れしばらく置いてから後に布に入れて絞り採る。柿渋の生産を専業的に行う地域もあったが、農家でも比較的簡単にできるため、自前でつくることも多かった。ビニールがない時代の雨合羽や酒袋、小包の包装などに使う渋紙、漆の下塗り、染料など広い用途があった。 カキはもともと日本にも野生すると主張する学者もいるが、中国から伝わったと考えられる。というのもカキは東インド産のロクスブルギイ種(Diospyrosroxburghii)の染色体の倍数化を通じて由来した耐霜性をもち、果実が平滑で無毛になった栽培種と推定されるからだ。 江戸時代前期の儒学者で本草学者でもあった貝原益軒は『大和本草』で、カキを取上げその多様な食しかたを述べて興味深い。羹にしたり、蒸したり、いまでは目にしえないいろいろな食べ方をあげる一方で、カキが体を冷やす食べ物であると書いている。都会に育った私は登下校の道々柿の実を採っては食べたという経験はない。それが無性にさびしい。 |
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