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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ポインセチア

ポインセチア  クリスマスの花としてまず思い浮かべるのはポインセチアとシクラメンだろう。サンタクロースのように赤い目立つ「花」が共通点だといいたいところである。実は、ポインセチアの茎の上方の赤く人目を惹く花びら様のものは葉なのである。それでは色鮮やかな葉に取り囲まれた中心にある小さな蕊のようなものがそれかと思いきや、それも本当の花ではなく、いくつもの花が集まった花序であってややこしい。私自身、植物に興味をもった最初の頃、その意外さに面食らったものである。

 今ではクリスマスの花としてすっかり定着しているポインセチアであるが、もともとはクリスマスとは関係のない花であった。クリスマスの植物といば、クリスマスツリーのモミの木であり、西洋ヒイラギであった。モミの木はともかく、緑色の縁に切れ込みのある常緑の葉に赤い実を結んだセイヨウヒイラギはクリスマスの飾りに欠かせなかった。

 ポインセチアの赤い葉の部分は不規則に大きな鋸歯があり、セイヨウヒイラギの葉に一寸似てみえる。ポインセチアをクリスマスの花として売り出した人の先見性には敬服に値するものがある。

 クリスマスの植物名はややこしい。まずモミの木だが、これはモミの木の仲間(モミノキ属またはモミ属)の木ではなく、トウヒ属の植物で、植物学ではドイツトウヒ、学名をPicea abiesという。また、本物のヒイラギはキンモクセイなどと同じモクセイ科の木本であるのだが、セイヨウヒイラギはイヌツゲやモチノキと同じモチノキ科モチノキ属の植物で、学名をIlexaquifoliumという。

 ポインセチアは、メキシコ原産であるが、その仲間の植物は日本にも自生している。海岸に野生するイワタイゲキや畑の脇の草原などに生えるノウルシがそれで、これらの植物同様にポインセチアの茎や葉を切ると白い乳が溢れ出てくる。インディアンはその乳液を解熱剤として利用していたといわれている。

 ポインセチアはイワタイゲキやノウルシとともにトウダイグサ属に分類される。トウダイグサ属の属名はユーフォルビア(Euphorbia)である。この属の植物は広い地域に分布を拡げ、アフリカでは砂漠に優占する。アフリカの砂漠に生えるサボテン様の多肉植物にはこのトウダイグサ属の植物が多く、ユーフォルビアの名で観賞用に栽培されている種もある。

 ポインセチアの学名はEuphorbia pulcherrimaで、種小名は最も美しいという意味。ポインセチアは英名によるが、その名はこの植物をアメリカに導入したポインセット(Joel R.Poinsette、1775―1851年)に因む。合衆国南部のサウス・カロライナ州出身の彼は1824年にアメリカの初代駐メキシコ大使となり、1833年にチャールストンにいた友人にもとにポインセチアを贈ったというのだ。日本には明治中期に渡来した。現在では、赤だけでなく、上部の葉が白やピンク色になる園芸品種もある。

 ポインセチアはふつう鉢植えにされているが、日本でも霜のおりない暖かい地方では地植えで栽培することができる。分枝を繰り返しながら生長していき、高さも5メートル近くになる。節間が伸びてだらしなく伸長した枝ぶりと、あまり赤くならない葉をみると、とてもこれがポインセチアとは思えないほどの変化ぶりである。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。