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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ギボウシ

ギボウシ  山菜ウルイはギボウシの若い葉だ。アスパラガスにも似た風味がある。ギボウシの名は、蕾の時期の花穂が宝珠に似ていることから(つまり「擬宝珠」)とか似ている葱坊主と関連させた「葱法師」によるといわれている。

 ギボウシの仲間はギボウシ属に分類される。その属名はHostaという。ギボウシ属は中国大陸から朝鮮半島を経由して日本に分布し、およそ35種がある。その分布は東アジアに限られるのだが、今や北半球やオセアニアの温帯地域で観賞用に広く栽培されている。日本庭園ばかりではなく、西洋式の庭園でも林床など日陰の植被に最適な草本と考えられている。

 ギボウシを愛好し、また主に園芸目的に研究する人が欧米には多く、いくつか専門書も出版されているほどである。実際に、葉の色や質感、斑入り葉や葉縁の波打ちなどに様々なものがあって、その多様ぶりに驚かされる。
ギボウシ属の種が初めてヨーロッパに移入されたのは中国原産のタマノカンザシとムラサキギボウシで、1789年かその前年のことであった。移入したのはヒッベルト(G. Hibbert)と記録されている。

 ギボウシはヨーロッパにはない植物だったから、その正体を正しく理解するのに時間がかかったらしく、初めはカンゾウ(Hemerocallis)の仲間に分類されていた。ギボウシの独自性に最初に気付いたのはウィーンのシェーンブルグ宮殿付き植物学者のニコラウス・ジャカンで、彼は皇帝付き侍医のニコラウス・トマス・ホスト(Nicolaus Thomas Host)に因みHostaという属名を与えた。これは1797のことであったが、現行の国際植物命名規約はこの命名を無効とし、1814年のトラティニックによる発表を有効とした。彼が基準に選んだのはタマノカンザシ(Hosta japonica)である。

 ヨーロッパへの最初のギボウシは中国から入ったものであったが、1830年代には日本のギボウシが移入された。これに関わったのはかのシーボルトである。彼は当時日本で栽培されていたギボウシや主として西日本の野生種を持ち帰り、繁殖し大々的にセールスした。これが第二のギボウシ・ブームとなっただけでなく、ギボウシがすっかりヨーロッパそして後にはアメリカに定着する契機となった。

 ギボウシ属の種は日本に26種ある(異説もある)。コバギボウシ(西日本ではミズギボウシ)やキヨスミギボウシ、オオバギボウシはこれまで低山や丘陵地の下生えとしてかなり普通にみられた植物であったが、今はどうだろうか。昨今の自然の荒廃には目を被いたくなるが、そうした中で4種のギボウシでその絶滅が危惧されている。

 庭園などによく植えられているのはオオバギボウシ(Hosta sieboldiana)とその園芸品種のトウギボウシ、これに似て葉脈が著しく隆起するトクダマ(Hosta tokudama)、それにコバギボウシ(Hosta sieboldii)やイワギボウシ(Hosta longipes)とそれらの園芸品種である。しかし、最も多くの野生種が分布する日本でのギボウシの園芸化は欧米に比べ今一歩という印象を受けるのは残念だ。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。