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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ヒマワリ

ヒマワリ  ヒマワリはたったひとつでも人目を引き、魅力的でもあるのに、ゴッホのヒマワリやソフィア・ローレン主演の映画「ひまわり」のせいだろうか、無数ともいえるヒマワリの群生に魅力を覚えてしまう。最近ではあちこちのフラワーパークや公園に畑のようなヒマワリの花壇をみる。子供たちに交じって大人たちもはしゃぎまわっている。あの明るい黄金色の花には人を陽気にさせる何かが潜んでいるかのようだ。  

 ヒマワリの野生種は北アメリカからペルーにかけて分布している。インカではこの花を太陽神のシンボルとし、この花をかたどった模様を寺院などに刻んだ。ヒマワリが初めてヨーロッパに紹介されたのは、コロンブスが初めて新大陸に到達した1492年からおよそ100年を経た1596年のことらしい。今の感覚でいえば、100年後とはずいぶん遅い。しかし、ヒマワリは、カンナ、オシロイバナ、タバコ、マリーゴールドとならび、ヨーロッパにいち早く紹介された新大陸産の鑑賞用の園芸植物のひとつであったのである。   

 ちなみに日本への伝来は寛文6年(1666)といわれている。やはり渡来の当初から着目されていたのだろう。伊藤若冲や酒井抱一もヒマワリの絵を残しているくらいだ。  

 ヒマワリは学名をHelianthus annuus L.という。 属名のHelianthusはギリシア語起源で、しかも2つの語、すなわち、heliosとanthosの合生語である。前者は「太陽」を、後者は「花」をいう。まさしく「太陽の花」の意味である。学名としてはリンネの命名であるが、この名前を最初に用いたのはオランダの植物学者グロノヴィウスである。リンネはオランダ留学中に当時の著名な大学者であったグロノヴィウスの知遇を得た。蛇足だがアジサイの属名、Hydrangeaも名付け親はグロノヴィウスだ。  

 しかしグロノヴィウスがHelianthusの名を与えた植物はヒマワリそのものではなく、Helianthus giganteus L.の学名をもつジャイアント・サンフラワー(Giant sunflower)であった。それゆえに、属名の「太陽の花」の由来は、インカのシンボルであったことによるのではなく、花のかたちと、それが太陽に向かって咲くことにあるようだ。  

 種小名のannuusは一年草の意味。この種小名を綴るたびに、私はヒマワリが一年草であることを再確認させられる。何しろ一年で高さ5mもなる草はそうないであろう。  

 ヒマワリの他、ヒマワリ属には北アメリカを中心に新大陸に分布する約50もの種がある。ヒマワリに次いで有名なのは学名をHelianthus tuberosus L.というキクイモであろう。英名をJerusalem artichokeあるいはgirasoleという。日本では帰化植物としても有名だが、地中にできる塊茎を食用にするため栽培もする。イヌリンという成分が60%程度を占め独特の風味をもつ。  

 ヒマワリはキク科の植物であり、植物学的にえばその花は本来の花ではなく、たくさんの花が集まってつくる花序である。キク科植物の花序は頭状花序と呼ばれるが、頭花ともいい、一般にはこの名称の方が広く用いられている。  
 さてヒマワリの頭花だが、直径30cmときには40cmに達するものがあり、まさに太陽の花と呼ぶのにふさわしい。

 ヒマワリの頭花は2種類の花からできている。花序の周辺に配置しているのが舌状花で、披針形をした黄金色の花びら状をした花冠がひときわ目立つ。舌状花に取り囲まれた内部を埋め尽くしているのが筒状花である。筒状花は花冠が目立たず、色も舌状花より濃く、褐色をしていることが多い。

 ヒマワリは鑑賞のためだけでなく、作物としても栽培される。ゴッホの描いた畑のヒマワリは作物として栽培されていたものである。ヒマワリの種子から絞った油、ヒマワリ油は英語でsunflower oilといい、料理油として重要で、1970年代では大豆油に次いで多く生産されていた。とくに旧ソ連では食用油の3分の2がヒマワリ油であった。種子に含まれる油の量は全重量の25から32%といわれる。また、ヒマワリ油は、リノール酸のような不飽和脂肪酸を多く含む点で、健康によくそれがヒマワリ油の生産量を高めている理由ともなっている。

 鑑賞を目的にした栽培品種もかなりある。頭花全体が舌状花となったいわゆる八重咲きの栽培品種である'サンゴールド'や'ピグミー・ドワーフ'は、私たちのもつヒマワリのイメージから遠い。私ごとをいわせてもらえば、野性味にあふれた素朴なヒマワリが好きだ。皆さんはいかがだろうか。

 ヒマワリの種まきをするのは4月頃だが、はや7月には開花する。急速に大きくなるヒマワリの栽培には栄養、すなわち肥料が重要だ。高茎の栽培品種では1週間に1度くらいの割りで堆肥や牛糞を追肥してやるとよいという。

 冷夏の夏などには勢いよく伸びた茎の先に咲くヒマワリの花が恋しくなる。ヒマワリはいかにも夏の花だ。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。