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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ナデシコ

ナデシコ  旧盆を過ぎると秋を想う。とくに東日本ではそうだ。秋の七草もほとんどが咲き始める。七草のひとつ、ナデシコの花期はもっと早い。その清楚な花は盛夏に至る前から咲き始める。

 ナデシコの分布は広く、沖縄を除く日本全土に及び、さらにユーラシア大陸の温帯から亜寒帯地域に広がる。学名はDianthus superbus。属名はゼウスあるいは神をいうdiosと花anthosからなるギリシア語起源の語で、その芳香をもつ美しい花を讃えて名付けられたという。種小名のsuperbusは気高いという意味だ。

 もともとナデシコは日当たりのよい川原や丘陵地や山の草原などに普通にあった馴染みの草だった。園芸植物を負けないその可憐さはひとめみれば忘れがたい。

 多年草で毎年地際から数本の茎を出す。高さは20から30cmだが、ときには60cmになることもある。葉は線形で先は尖り、少し粉っぽい緑色で、常に対生する。茎の先に数花を開くが、3または4対の苞葉をともなっている。大陸や北海道に産するものはこの苞葉が2対しかなく、エゾナデシコといって区別することがある。

 花は5つの先が細かく切れ込んだ紅色の花弁をもつ。10本の雄しべと2本の花柱をもつひとつの雌しべをもつ。

 ナデシコの仲間、ナデシコ属にはカーネーションなど鑑賞用に栽培される種がかなりある。日本でよくみるのはセキチクであろう。学名をDianthus chinensisといい、種小名が示すように中国原産でかなり古くから日本に伝わり、広く栽培されてきた。日本産のナデシコをときにヤマトナデシコと呼ぶことがあるが、その起こりは唐渡りのセキチクを唐ナデシコと称したことから、両者を区別するためにかく呼ばれたのだといわれる。『枕草紙』の「草の花」に「夏の花はなでしこ、から[唐]はさらなり、やまと[倭]のもいとめでたし、うつくしきものなでしこのはな」とある。

 高山に生える矮性型にタカネナデシコの名前が与えられている。鑑賞用に栽培されるナデシコには一層小型化したものもある。ナデシコが関係した園芸植物で重要なのがイセナデシコである。ナデシコとセキチクの交配株に由来するといわれている。サツマナデシコ、オオサカナデシコの名をある。いずれも同じ系統に属し、薩摩で作出されたものが、大阪を経由して伊勢に伝わったのである。典型的なイセナデシコは花弁は細長く伸び下垂し、先にはさまざまに裂ける。ある種の変化アサガオを思わせる風情がある。この型は初め、松坂に住んだ紀州藩の武士、継松栄二(1803-1866年)の改良によるとされる。別にゴシナデシコと呼ばれるものがある。これは有栖川宮家から光格天皇(1771-1840年)に献上され、宝鏡寺に下賜されたので、後にゴショ(御所)ナデシコと呼ばれるようになったという。系統的にイセナデシコと同じものと考えれている。イセナデシコは江戸でも珍奇な花として珍重された。一時廃れたが最近再び脚光を浴びるようになり、園芸店でもみかけることが増えた。

 最後にイセナデシコ同様に江戸時代に流行したのがセキチクの園芸品種であるトコナツ(常夏)で、こちらは現在でも各地でよくみかける。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。