大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: ヤツデ |
ヤツデはまるで天狗の団扇のような特徴的な葉をもち誰もが知っている親しみ深い植物だ。 ヤツデ(八ツ手)の名は、八本指をもつ手のようにもみえることから生まれた。学名はFatsia japonicaという。この属名Fatsiaもラテン語に由来する言葉ではなく、「八つ手」あるいは「八(ハチ)」からきたのだろう。japonicaは日本の意味である。 ヤツデはウコギ科に分類される日本特産の低木で、宮城県以西の本州、四国、九州、南西諸島に自生していて、海沿いの林地に生える。南西諸島のヤツデは葉が薄く、指状の裂片が細長いなどの違いがあり、変種として区別されリュウキュウヤツデ(Fatsia japonica var. liukiuensis)と呼ばれている。 高さはふつうは人の背丈ほどだが、暖地の樹林下などでは3mくらいになることもある。葉の柄は長さ30cmくらい、天狗の団扇状の葉身は長さが20から30cmにもなる。花は11月から12月に咲く。花ひとつひとつは目立たないが、傘の骨のように散形状に集まった花房が枝の先端から出る花序に総状につき人目を引く。5つの白色の花弁をもつ。花弁がつぼみのときにすり合わせ状に配置するが、これはヤツデの仲間を他から区別する際の数少ない特徴のひとつになっている。花が終わった翌年の5月頃に熟す果実は直径5mmくらいの球形で黒色をしている。 ヤツデは観賞用の園芸植物として、いまや日本ばかりでなく、ヨーロッパや北米など、海外でも広く栽培されている。ヨーロッパには1838年に入ったとビーン(W. J. Bean)の『英国植栽樹木誌』(Trees and Shrubs, Hardy in the British Isles)には出ている。 手のひら状に切れ込んだ葉も独特で鑑賞に値するが、ヤツデが日本で珍重される別の理由は冬に花咲くことだろう。冬に花咲く木にはツバキ、サザンカ、ビワなどがあるが決して多くはないからである。 暖地では丘陵地に行けば自然状態で生えているヤツデに出会える機会も多いにもかかわらずよく庭植えもされている。日陰でもよく育ち、その天狗の団扇様の葉を多数茂らした樹姿が独特な風情を醸し出しているからであろう。 古くから園芸品種が知られているが、代表的なものに、葉縁に白色の覆輪が現れるフクリン、同じく葉に黄色の網目が出るキアミガタ、黄色の斑紋をもつキモン、白色の斑紋をもつシロブチ、裂片が細かく分裂するヤグルマがある。 キヅタに似て、ヤツデのように裂片が突出したファツヘデラ・リゼリ(xFatshedera lizeri)は、不自然かつ奇妙なかたちをしている。これは1910年に、フランスのナントにあったリゼ・フレル商会(Messers Lize Freres)の種苗技術者が、ヤツデの園芸品種'モセリ(Moseri)'にセイヨウキヅタの園芸品種'ヒベルニカ(Hibernica)'の花粉をかけて作出に成功した属間雑種で、自然界にはまったく知られていないものである。 ヤツデと同じ属に分類される種に小笠原諸島に分布するムニンヤツデ(Fatsia oligocarpella) がある。葉の裂片の先が細長くなるのでヤツデとは目にしたときの印象がちがう。ヤツデもムニンヤツデもいまは野生植物の特徴を維持した状態で園芸に供されているが、イチジクの仲間のベンジャミンのように、室内でも育てられる観葉植物としての改良など、園芸上は将来有望な資源といえるのではないだろうか。 |
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