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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ナンテン

ナンテン  植物は種数も多く、なかなか名前が覚えられない。それどころか何度見ても忘れてしまうことが多い。私の勤務する大学では植物を前に特徴を説明する実習があるが、名前も一緒に覚えるようにいう。それでも多くの植物はなかなか名前を覚えてもらえないのだが、ナンテンだけは知らない学生の方が少ない。知らない学生がいてもすぐに覚えてもらえる。他に似た植物がないからだろうか。ともかくナンテンは一度みたら忘れられない植物の部類に入る。

 ナンテンの果実は晩秋から冬に赤く熟し、冬の乏しい色彩に彩りを添える。また、小鳥も好んでその実をついばむので、ナンテンを植えた一角は日中賑わう。

 ナンテンは俗称を円満成就の吉祥に通じる「成天」(ナルテン)といい、古くから縁起木として庭前に植えるだけでなく、祝事では床の間に生け、重詰めなどの進物などにはその葉を添えたりもした。また、ナンテンが「難を転ずる」にも通じることから、魔除けあるいは厄除けの木であるともされた。こうした言い伝えは現在にも残り、今でも庭前にナンテンはつきものといっても過言ではないだろう。

 ナンテンの名前がこのナルテンから来たという説もあるらしいが、おそらく漢名の南天燭の燭を抜き去った一種の略称に由来するものだろう。メギ科の小低木で、学名をNandina domesticaという。属名のNandinaも南天に由来しているとみられている。

 ナンテンは中国と日本に自生する。多くの参考書にはインドにも分布するように書いてあるのだが、私にはインドに産することを報告した文献が見付けられない。

 ナンテンを最初にヨーロッパに紹介したのは江戸時代の元禄年間に来日したドイツ人の旅行家ケンペルだった。ケンペルは帰国後、日本の植物のことを自著『廻国奇観』(1712年)に書き、ナンテンの正名(漢名の意味)を「南燭 Nandsjokf」、俗称を「NattenまたはNandin」であると書いた。属名はこの最後の語Nandinから来ていることは明らかである。ケンペルの耳には当時の日本人(あるいは通詞の今村英生[源右衛門])がこの植物を指していう言葉がナッテンあるいはナンディンと聞こえたのだろう。

 普通にみるナンテンは高さ1mくらいだが、自生の株では2から3mになることもある。庭植えのナンテンからは想像できないが、時たま長さが2mを超える南天の床柱というものを見かけるので、3mにもなるナンテンの大木も実在するのだろう。幹は下方では枝分れせず1本立ちし、上方で枝分けれし、深緑色の葉を茂らす。葉は大きく羽状に切れ込む。小葉は披針形で、長さ3から6cmで、先は細長くやや尖る。

  江戸時代の日本は世界でも有数の園芸大国だったが、鎖国の影響で西洋の園芸植物は多くは渡来せず国内に自生する植物も鑑賞された。縁起木でもあったナンテンでは園芸品種づくりが競われ、‘筏’、‘棒’、‘奴’、‘縮緬’など数々の「葉芸」が生み出された。これらは比較的容易に極端な場合には葉身がほとんど退化して軸だけになってしまうような性質を引き出して生み出されたものである。総称してキンシナンテンという。ナンテンの葉の葉柄が筏のように組み合わさった‘イカダナンテン’は一寸目にしただけではナンテンとは判らないくらいに、通常のナンテンとは違ってみえる。現在でも50を超える園芸品種が栽培されているものと思われる。

 最後になったが、ナンテンの果実を乾燥した「南天実」は、鎮咳剤になり、喉飴などに混ぜて利用されている。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。