大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: ユキヤナギ |
小さな花の群がりがあたかも大きな1個の花のようにみえる植物はけっこう多い。タンポポやヒマワリなど頭花をもつキク科、ハナウドなどのセリ科、タマネギのようなネギ属の植物、クローバーなどが思い浮かぶ。ユキヤナギもそうした植物のひとつであろう。 東京よりも春の出足が遅れる仙台の春はそれこそ百花繚乱の趣きがあった。路に沿って設えられた垣根にユキヤナギが長い列をつくって植えられた家があった。よく陽が当たる春の一日、その小径はあたかも残雪を照らすようにユキヤナギの白花が咲き乱れていたのを思い出す。 シダレヤナギのそれのような、細く垂れ下がる枝いっぱいに小さな白花を生じたユキヤナギは、知らない人がないくらい普通に栽培されている。バラ科の低木で、学名はSpiraea thunbergii。コゴメバナの別名もあるが、ユキヤナギはこれも日本でよく栽培されるシモツケの仲間の植物である。つまりSpiraeaはシモツケの仲間をいうシモツケ属の名である。種小名のthunbergiiは江戸時代に来日し、近代分類学の立場で日本の最初の植物誌を著したスエーデンの植物学者カール・ペーター・ツュンベルク(1743-1828)に因んでいる。 園芸植物としては普通な方に属するユキヤナギだが、謎も多い。原産地にしても中国原産で鑑賞用に渡来したとする説と西日本にもともと自生していたとする説がある。確かにユキヤナギは西日本では渓流沿いの岩場などに野生状態で生えている。これをもともとの自生とみるか、栽培のために渡来したものが野生化したものとみるかで、解釈は分かれる。が、いまのところそのどちらかを決める手段はない。また渡来年も不明である。 高さは2mにも達する株もある。葉は冬に落葉するが、披針形で枝に互生し、2から3cmの長さになり、初夏の鮮やかな緑は見栄えがする。あまり知られていないが、秋に紅葉を鑑賞する園芸品種もある。新葉が出るのとほぼ同時に3から7花が傘状に束生した花群が花序の枝上に連続して並ぶ。花は直径1cmくらいで、かすかな香りがある。また、シダレヤナギに雪が積もったように白一色にみえるのは花序の枝に葉が出ないからだろう。 ユキヤナギには多数の園芸品種がある。在来の系統は、早生と晩生系の園芸品種群に大別される。また営利目的の栽培に利用される園芸品種の系統として蒲田早生系統のものがあり、生長力が強く、多花性でかつ大輪でもある。また、庭などに植栽する系統の他、切花用の系統もある。古くから生け花の材料とされてきたこともありこの方面の需要も少なくない。夏葉が鮮やかな黄色になる「オウゴン」や花が淡いピンク色の「フジノ・ピンク」や桃色の園芸品種もある。 だが、ユキヤナギの園芸品種はまだ数が限られているようだ。その改良はこれからの課題だといってもよい。私はそうした改良化を期待しないわけではないが、一方で原種そのものともいえる古来からのユキヤナギの園芸品種にもそのまま残って欲しいものだとも思う。園芸品種は時代とともに推移するのだが、伝統的な園芸品種の保存も忘れてはならないことだと思う。 ユキヤナギには静かなたたずまいを愛したかつての日本の文化と人々の姿が重なる。平凡だが飽きないユキヤナギの花は毎年人々に春の訪れを伝えてくれる、めくり暦の役割も果たしていたといってよい。私は今でも花の季節のユキヤナギが好きだ。 |
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