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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: シソ

シソ シソは日本を代表するハーブだ。ほとんどの日本料理に合うだけでなく、洋風の料理に添えても新鮮な風味が楽しめる。シソはシソ科を代表する一年生の草本で、葉が対生すること、茎が四角形になること、花冠が唇形になることなど、シソ科の植物の特徴をよく表している。シソ科には様々な香油成分が含まれるため、バジルやミントなどハーブとして利用される植物がたくさんある。バジルの代わりにみじん切りにしたシソを用いたパスタなどは好評を博している。

 シソは朝鮮半島、中国を経てヒマラヤにまでの広い範囲に分布する植物の1型である。その植物のことをここでは「種としてのシソ」と呼ぶことにする。その種としてのシソには、香油成分、色素などのちがいで異なるいくつかの変異型が知られていて、シソとは香油成分の配合の割合が異なる型に、エゴマやレモンエゴマがある。韓国料理では今日でも重要視されるエゴマがシソと同種であることは存外知られていない。シソやエゴマ、レモンエゴマなどを含む「種としてのシソ」の学名はPerilla frutescensである。

 種としてのシソはかつては主に種子から油を絞るために栽培された。日本はエゴマが油料用に中国から渡来してことが天平時代の古文書に記録されている。エゴマから絞った油は「エノアブラ」(荏の油)と呼ばれ、ナタネの栽培が普及し菜種油が灯明用に利用される前は荏の油が灯明用に用いられた。また、ひと昔前までは針を包む紙には錆止めにこの油が浸み込ませてあったし、雨合羽や雨傘などの防水紙として利用される「桐油紙」などが作られた。 新たに渡来したゴマが普及する以前は、日本でも料理にはもっぱらエゴマが利用されたらしい。

 シソは明らかにエゴマとは異なり、清々しい香りをもつ。漢字では紫蘇と書く。今ではもっぱら、ハーブとしての利用に供する目的で大量に栽培が行われる。用途として、「芽じそ」、「穂じそ」、「葉じそ」の3つが主要なものであろう。芽じそは、子葉が展開し、本葉が伸び出た頃を収穫する。青ジソ系の「アオメ」と赤ジソ系の「ムラメ」がある。また葉じそにも赤じそと青じそがある。日本で広く栽培されるが、最近ではベトナム、イラン、ウクライナ、アメリカ合衆国など海外でもハーブとして栽培されているらしい。

また、ハーブとしての利用だけでなく、鑑賞用に栽培されることもある。小さな淡紅色の花をやや密に生じた花序は風情を感じさせる。シソはすでに述べたように、青ジソと赤ジソに大別されるが、葉が紅紫色をした赤ジソの系統は色合いもよく、庭植えにも適していると思うのだが、いかがなものか。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。