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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: モミノキ

モミノキ  冬に話題にするモミノキといえば、それはクリスマス・ツリーに多く用いられるドイツトウヒのことであろう。日本に自生するモミノキ(単にモミともいう)とはまったく別の針葉樹である。日本でのクリスマスがそうであるように、ドイツなどヨーロッパ中部の国々を中心に、イギリス、アメリカ合衆国などでは、クリスマスのかなり前から煌びやかな品々で木を飾り、クリスマスの訪れを待つ。クリスマス・ツリーにドイツトウヒが広く用いられたのはこの種が樹姿もよく冬の葉が青々とし、またいちばん普通で容易に手に入ったからであろう。

 ドイツトウヒは針葉樹の仲間であり、マツ科トウヒ属に分類される。トウヒ属は北半球の冷温帯から亜寒帯に広がり、およそ40種があるが、ヨーロッパに自生するのはドイツトウヒと別の種の2種だけである。ちなみに日本にはこの属の種として、トウヒ、エゾマツ、アカエゾマツ、ハリモミ、イラモミなど8種が自生し、亜高山の針葉樹林や北海道の針葉樹と落葉広葉樹との混交林に出現する。一方、日本のモミなどは同じマツ科のモミ属に分類される。トウヒ属に類似もするが、モミ属では松かさ(毬果)が直立していて、鱗片は軸から離脱するため最後には松かさの軸だけが残る。トウヒ属では松かさは下垂してつき、鱗片は最後まで離脱せず残るため軸がむき出しになることはない。また枝にできる葉の落ち跡(葉枕)がモミ属では突出しないが、トウヒ属は顕著に突出するので、ふつうは枝をみただけでモミ属かトウヒ属かの区別がつく。

 クリスマスが近づくとよく耳にするのがモミノキの歌である。そこに登場するTannebaumはまさしくモミノキであり、トウヒではない。おそらくクリスマス・ツリーは常緑の円錐形をした針葉樹ならモミノキの仲間だろうとトウヒの仲間だろうとどちらでもかまわなかったのだろう。ちなみに最近の独英辞典をみたら、Tannnebaumにクリスマス・ツリーの訳語が載っていた。

 トウヒ属の属名はPiceaで、ラテン語のpix、すなわちピッチ(瀝青)に由来する。樹液の脂質性によったものだろう。一方モミ属はAbiesで、この語は古くは針葉樹一般を指したといわれる。ドイツトウヒの学名はPicea abiesといい、上記の2語からなる。

 ヨーロッパの中部から北部にかけての広い範囲に分布し、植林もされる。ノルウェーやイギリス(自生はしない)などではその森林は木材として、また環境保全上での重要な資源となっている。また、鑑賞用に公園や庭園での植栽も広範囲に及んでいる。とくに広大な敷地を有する大邸宅の森林庭園のような林地園芸でも景観形成に欠かせない樹種となっている。

 樹高は30mほどだが、ときに50mにも達することがある。独立樹での樹形は細長い円錐形で、北方ほど細長くなる傾向が認められる。新しく伸びた枝は褐色をおびているが、無毛で、葉を密生する。葉はふつう暗い緑色をしているが、光沢があり、長さは1-2cm、幅1mm程度で、横断面は四角形をしている。その4面ともにやや白味をおびた気孔帯があることは重要な特徴でもある。松かさは円柱形で長さは8-16cm、直径3-4cmになり、枝から垂れ下がる。

 日本に本種が渡来したのは明治の中頃といわれている。今ではクリスマス・ツリー用の栽培がさかんに行われている。そればかりではない、庭植えや鉢植えに向いた多数の栽培品種があり、 その数は優に100を超える。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。