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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: サイネリア

サイネリア  鉢を被うマントのように半球状に多数の紅や紫、青紫などの頭花を密生したサイネリアは、夏を除き通年園芸店にみられるが、とくに12月はシクラメン、ポインセチアなどともに目玉商品のひとつとなっており、その多彩な花色や草姿が魅力的である。

  日本には明治年間に渡来し、フウキギク(富貴菊)とかフキザクラ(蕗桜)の名で呼ばれたが、今はもっぱらサイネリアの名で市場に出廻っている。しかし、私が子供の頃はサイネリアとはいわず、もっぱらシネラリアと呼ばれていたように思う。その名称はともに学名Cinerariaによっている。

  サイネリアは18世紀末にイギリスで作出された園芸種で、自然界には存在しない。交配親となったのは大西洋諸島のカナリー諸島に自生するPericallis cruentaPericallis lanataで、さらに他の数種との交配によって花色や草姿などの多様性が生み出された。

  最近までサイネリアはCineraria(キネラリア属)という属の1種とされ、学名もCineraria ×hybridaと呼ばれてきた。しかし、近年はサイネリアとその交配親などの近縁種は、すべてがカナリー諸島などの大西洋諸島に分布が限定され、多くの形状でアフリカ南部からマダガスカル、アラビアに分布する本来のキネラリア属とは異なることが判り、ペリカリス属Pericallisという属に分類され、学名もPericallis×hybridusと呼ばれるようになった。この研究は私の古くからの友人のひとりでもあるスウェーデンのノルデンスタム博士が行ったもので、1978年に同博士から出版されたばかりの論文が送られてきたときには、学説の新鮮さにとても驚いたことを思い出す。

  サイネリアはキク科の越年草で、互生する葉をもつ。葉は卵形で、縁が切れ込み、基部は柄状に細まるが、茎に付着する部分が耳状になる特徴をもつ。

  サイネリアの園芸品種は花(頭花)の大小、草姿などからいくつかのグループに分類されて扱われる。

  グランディフロラ系(Grandiflora)は最初ドイツで改良されたもので、現在鉢ものとして市場で最も普通な品種群である。頭花が直径7~10cmにもなる大輪で、舌状花の幅も広く隙間なく配置する。花色は鮮やかな紫、青紫、ピンク、白などで、基部が色違いになる蛇の目咲きのものもある。巨大輪と呼ぶ一群はさらに大形の頭花をもつが、花数が少なく、舌状花の幅が狭く、花弁(舌状花)間に隙間ができる。

  ムルティフロラ(Multiflora)系は、多数の密生する頭花をもつが、頭花は直径2~3cmと小さい。最初に書いたように、多数の頭花が半球状になって鉢を被い隠すほどに広がるものの多くはこの系統の園芸品種である。この系統も多彩な花色をもつが、頭花の中心部分を占める筒状花の色が黄色のものと、淡黄白色のものとがある。前者の品種群はゴールデンセンター、後者をシルバーセンターと呼ばれている。

  ダルマ系は、グランディフロア系とムルティフロラ系の交配によるもので、現在鉢栽培用に市場にみる園芸品種の大半はこの系統に属する。 

  頭花は中輪で、直径は3~5cmで、密生し、草丈は20~30cmほどになる。市場ではさらに東京・ダルマ・グループ、カシハラ・ダルマ・グループ、ヤマツリ・ダルマ・グループなどに区別されて扱われている。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。