大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: カモミール |
衣食住の様々な場で植物は大活躍である。石油由来の新素材も登場したが、私たちの植物素材への愛着は強まりこそすれ弱まることはないようだ。 生活に欠かせない植物の需要はさらに医薬にも広がる。様々な植物を薬草として利用することから植物学は起った。誤って毒草を口にすれば命さえ落としかねない。 異同を究めることは生死にかかわったのである。 薬草は病気になってからも処方されたが、予防にも重用された。ラベンダーのように臭気を消し、爽快な環境を生むためにも植物は重要だった。 因みにラベンダーの名は学名のLavandulaによるが、その語頭は「洗う」を意味するlavoからきている。洗面所ラバトリー(lavatory)も同じである。ラベンダーは手洗い場や浴場、そこで使う石鹸にベストな植物だったのである。 特有の芳香を具えた植物はハーブというが、カモミールもそれを代表する植物だろう。ひとくちにカモミールといっても、種を異にする植物にカモミールの名が冠せられているのをご存知だろうか。 例えば、単にカモミールとかカミツレ、ジャーマン・カモミールというのは学名をMatricaria recutitaという植物だし、ローマ・カミツレ(カミルレとも)あるいはスイート・カモミールはChamaemeleum nobile、頭花全体が黄色になるコウヤカミツレ、ゴールデンまたはイエロー・カモミールはAnthemis tinctoriaだ。いずれもキク科の植物だが、分類される属が異なる。 カモミールは日本では最初カミツレの名前で広まった。カミツレの名のおこりはカモミールのオランダ語、kamilleによる。なのでカミルレという読みもなされてきた。強壮な一年草で、頭花は周縁に白色の舌状花があり、中心部分を占める管状花の部分が球状に盛り上がる。アズレンやテルペンなどの製油成分を含み、芳香があり、入浴剤や発汗、リューマチ、冷え症、消炎剤、下剤などの民間薬として利用される。 しかし今、日本でカモミールといっている植物の多くは、ローマ・カミツレである。越年草で、茎は高さ70cmにもなる。枝分かれし、細かく分裂した葉を互生する。頭花の直径は2.5cmほどで周縁には白色の舌状花がある。頭花を乾燥したものはカミツレと呼ばれ、薬草とするほか、カモミール茶がつくられる。ローマ・カミツレという名は、頭花を蒸留してえられる製油がローマ時代塗布に利用されたことによる。 ローマ・カミツレやカミツレに似て、白色の舌状花をもつものにキゾメカミツレ(Anthemis arvensis)、カミツレモドキ(Anthemis cotula)があり、観賞用に栽培される。カモミールが分類されるシカギク属は属名をMatricariaといい、この属は南アフリカから地中海地域を経て、東アジアにまで分布が広がっている。 カモミールに似て芳香がないイヌカミツレMatricaria inodoraはヨーロッパ原産で、日本に帰化している。コウカシカ種Matricaria caucasicaは西アジア原産で、一見マーガレットを想わせる。マーガレットArgyranthemum frutescensはマカロネシア(カナリーなどの大西洋諸島)原産で、世界中で広く観賞用に栽培される。広い意味ではキク属に分類されるマーガレットにはキダチカミルレの名がある。 ハーブ類でカモミールの仲間は一番分類がややこしい。種ばかりか、属の区別点も微細で、肉眼でははっきりしない。分類体系をめぐる見解もまだ一致しない部分がある。だが、間違いないのはこの仲間がキクやヨモギ属と類縁が近いことである。洋の東西、キクの仲間を香草として重用したのである。ただカモミールがヨーロッパ的な香草の代表とすれば、キクとヨモギは中国・日本を代表する香草ということになる。 |
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