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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ニガウリ

ニガウリ  ニガウリには文字通り苦い思い出がある。これをキュウリと混同し、「化け物キュウリ」ぐらいに思い込んでいたことだ。まだ植物学を学ぶ以前のこととはいえ思い出すと冷や汗が出る。そのせいではないだろうが、私はあの苦味が苦手でもあった。最初に口にしたのは沖縄だったが、あまりの苦味に思わず口から吐き出してしまったことをこれまた鮮明に覚えている。

 ニガウリは外観はキュウリにも似るが、外果皮はずっと硬く、葉は掌状に5または9つの裂片に深く裂ける。おそらく熱帯アジア原産で、古くに世界の熱帯に広がったものと考えられる。




 ツルレイシの名は果実が、熱帯果樹の「茘枝(レイシ、ライチー)」に似ていることから来ているが、レイシはムクロジ科の木本植物で実際の類似点は少ない。江戸時代の著名な本草学者稲生若水が1612年に著した『多識篇』にニガウリのことが記されていることから、江戸時代初期の慶長年間(1596-1615年)に入ったものと考えられている。導入は鑑賞を目的としたものと推定されている。

 ニガウリの学名はMomordica charantiaで、命名したのは今年が生誕400年を迎えた生物分類学の祖、リンネである。1753年のリンネの命名に先立つ1700年に、フランスの植物学者ツルヌフォールがMomordicaという属名を提唱した。この名はラテン語の噛む‘mordeo’という語に由来する。この仲間の種子に亀甲状など、こじつければ噛まれたような模様があることに因むという。

 ニガウリ属には旧世界の熱帯を中心に45種ほどあるが、食用や鑑賞に利用されているのはニガウリなど数種だけらしい。

 ニガウリは日本でも野菜としてすっかり定着した。かつてはツルレイシと呼ぶことが多かった。以前からこれが普及していた沖縄での称、ゴーヤーの名もいまや全国に広がっている。

 ニガウリは苦味が好き嫌いを分ける。ジュースやゼリーもあるくらいだから、好きな人にはたまらない魅力的な果采なのだろう。苦味の主成分はモモルディシンで、この名は属名モモルディカからとられている。

 ニガウリの果実は完熟する自動的に裂開して、赤色の内部が露出する。この点は完熟しても黄色くなるだけで裂開しないキュウリとは大違いである。多年草だが日本では一年草として栽培される。

 野菜としてのニガウリには果実のかたちや色などが異なる多数の栽培品種がある。市場にもっと多く出回るのは「沖縄青長」。果実は細身で濃い緑色をし、いぼ状の突起はややまばらである。

果実がずんぐりとし淡い緑色で、いぼ状突起が全面に密生する「白中太長」は原種に近い型といえ、熱帯アジアでもよく見かける。

 いまは流行りではないが、ヘチマのようにつるを這わせ日除けに利用することができる。掌状に深裂した大きな葉を通して室内に差し込む光は軟らかで涼しい。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。