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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: カネノナルキ

カネノナルキ 「金のなる木」または「成金草」と俗称されるのは、ベンケイソウ科の多年草である。園芸では「花月」と呼ばれることもある。学名はCrassula ovataである。種小名のovataは卵形の意味で、多分葉のかたちによる命名だろう。しかし、園芸では未だ異名であるCrassula portulaceaの学名で呼ばれることもある。因みに、種小名のportulaceaはスベリヒユのラテン名だ。スベリヒユを想起させる肉厚の対生する葉が人目を引くが、ときに縁や葉全体が紅紫色を帯びることがあり、フチベニベンケイの名もあるらしい。

  カネノナルキが属するクラッスラ属(Crassula)は、300を超す種があるが、すべての分布がアフリカ南部、マダガスカルという狭い範囲に限定される、地域限定型の植物群である。日本ではそのうち20数種が鑑賞のため栽培されている。

  この仲間は例外なしに対生の多肉葉をもち、花はふつう上を向いて咲き、5つの萼片、花弁、雄しべをもつ。ベンケイソウ科では雄しべの数は普通、萼片の数の2倍だから、その半数で、変わり物の範疇に含まれる。対生葉が互い違いに重なり十字状になるクラッスラ・ヘミスフェリカ(Crassula hemisphaerica)などの種もあり、多彩で観葉植物としても珍重される。

  カネノナルキは、南アフリカのケープ州からナタール州にかけて分布し、多年草で大きな株は高さが人の背丈を越え、3m近くにもなる。茎は節の部分が筋が入ったようになり、離れやすいため、枝などはよく落ちる。葉は倒卵形または楕円形で、長さは4cmにもなる。花は茎の頂から出る花序に多数つく。花弁は白色またはピンク色で、ほぼ水平に開く。

  日本には昭和時代初期に観葉植物として渡来し、斑入りの変化が注目され、栽培が広がった。栽培が比較的容易だったことも本種の普及を助けたことだろう。

  ところで、カネノナルキ(金のなる木)あるいはナリキンソウ(成金草)の名は、葉のかたちがコインに似ており、栽培するれば容易にコインを手にしえ一挙に金持ちになれるからかく名付けられたとする説がある。また、茎頂が小さいときに5円玉などの穴あき銭を差込んでおくと、成長した茎にお金(コイン)がなったような演出ができる。それがお金がなる植物にみえるために「成金草」や「金のなる木」と呼ばれるようになったという説もある。

  カネノナルキやナリキンソウの名は、学術誌や教科書にも載る植物名として、あまりにも世俗臭が強くないだろうか。何かもっとこの植物の特徴を表すよい名前はないものかと思ったりもするのだが。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。