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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: マンサク

マンサク 私は三年を仙台で暮したことがある。早春のとある山行で、一面根雪に被われた斜面の樹林のあちこちで、花を開いたマンサクに出会ったことを鮮明に思い出す。そのときマンサクの名は「まず咲く」で、何よりも他に先駆けて真っ先に開花するさまからきたものだという説明にえらく納得したものだった。

  ところが家に帰り牧野富太郎博士の「牧野日本植物図鑑」をみると、"和名は満作の意にして満作は豊作と同じく穀物の豊稔を云う。この樹花盛んに発らきて枝に満つればかく云う。人に由ればマンサクを早春先開の義に取りしなりと謂えり」と記されている。また、別の書には、マンサクが早春盛んに開花すれば豊年満作の前兆であるゆえの命名とも記されている。日本の植物名の語源にはよく判らないものも少なくない。マンサクもそのひとつといえるだろう。

  マンサクはマンサク科に分類され、学名をHamamelis japonicaという。シーボルトとツッカリーニが命名した。最初の語、属名はおそらくセイヨウカリンをさしたと思われるギリシア語名であり、種小名は日本のという意味である。マンサク属には五種あり、北アメリカ東部に分布するアメリカマンサクを除き、他の種はすべて東アジアに分布する。今日ではマンサクなど数種が花木として観賞用に栽培され、種間雑種も作出されている。

  マンサクは高さ数メートルの小高木または低木で、樹皮は灰白色または暗灰色をしている。花は早春、葉が開出する前に咲く。花弁はねじれた線状で、皺があり、長さ一cm内外になり、多くは鮮黄色である。日本の広い範囲に分布し、四つの地方変種がある。変種マンサクは関東地方以西の本州、四国、九州に産し、葉は上部が突出してやや尖り、成長すると無毛となり、長さは四~八cmになる。これに似て葉が長さ七~十四cmにもなるのがオオバマンサクで、岩手県から関東地方北部にかけての太平洋側に分布する。中国地方、さらには四国や九州には変種マンサクに似て成葉でも裏面に星状毛が多いアテツマンサクが分布する。北海道西南部から本州の東北地方から日本海側を鳥取県にかけて分布するのがマルバマンサクで、葉は先が丸く、しばしば凹状になり、成葉には毛がない。日本海側に分布するマルバマンサクには花弁が紅色になる個体もあり、ベニバナマンサクまたはアカバナマンサクと呼ばれている。

  中国原産のシナマンサク(Hamamelis mollis)は花弁は黄金色で大きく芳香もあり、観賞用に日本でも栽培され、'パリダ'や'ゴールドクレスト'などの園芸品種もある。シナマンサクと日本のマンサクの間に生じた雑種が、ハマメリス・インテルメディア(Hamamelis xintermedia)で通常花は大きく、欧米などでも庭植え用に栽培される。ベルギーで誕生した花弁が紅色の'ダイアナ'、銅赤色の'ルビー・グロー'、黄色で矮性の'ウィンター・ビューティー'などがある。

  アメリカマンサクは葉が落葉しないまま開花する。黄色に変色した葉群の中にひっそりと少数の花を咲く佇まいはマンサクにはない趣きを醸している。私の好きな木のひとつだ。


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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。