大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: タラノキ |
3題噺しではないが、タラノキというと傘状の樹形、強烈な日差しに曝された山の斜面、握ると突き刺さる刺だらけの幹を思い浮かべる。もちろんその若芽の旨さを味わいながらの食膳でのことである。 落葉性の小高木あるいは低木のタラノキは、地崩れ地や山火事、伐採の跡など、日当たりの良い斜面を好んで生え、そこに樹林が復活する頃には姿を消してしまう。もともと林地であったところが何かの原因で崩壊すると、ちょうど傷口のカサブタのように、しっかりと大地に根を張り、土壌の流失を防ぎ止め、林地の回復に貢献している。傘状に広がった梢は燦々と注ぐ太陽の光を受けるのに適してもいる。 元禄の頃に儒者にして博物学者だった貝原益軒は食用となる木類の存在を指摘して、タラノキの他、ウコギ、クコ、リョウブ、サンショウ、ユズやミカン、チャンチンを上げている。 日本にはタラノキの仲間として、タラノキ(学名はAraliaelata)、リュウキュウタラノキ(Araliaryukyuensis)、ミヤマタラノキ(Araliaglabra)、それにウド(Araliacordata)の4種がある。そのうち、ミヤマタラノキとウドは草本で、木本性の2種は花や果実の柄の長さが異なる。タラノキは花柄が3~5m、果柄は4~6mmあるが、リュウキュタラノキは短くいずれも2mmを超えない。リュウキュウタラノキは奄美大島と沖縄島に自生する。神津島以南の伊豆諸島に分布する変種、シチトウタラノキ(Araliaryukyuensisvar.inermis)はまったくかほとんど刺がない。タラノキは日本全土を含む東アジアに広く分布し、全体に刺があるが、まれに刺が少ないかほとんどない個体もあってメダラと呼ばれる。 タラノキは山菜の王者といわれている。山菜ブームの頃は、どこにもあったさしものタラノキも個体数が減少したようにみえたものだ。若芽は4月頃から、雪解けの遅い奥山では7月頃まで採取できる。芽の刺は茹でると柔らかくなり気にならない。ウドに似た香りに加えて、多少の脂っこさがあり、これが好まれる一因となっているのだろう。茹でることが楽ではなかった古代は、焚き火の灰熱であくを殺して食べたと思われる。私も昔伐採小屋でこうして蒸し焼きにした若芽に、味噌をつけたものをいただいたことがあった。タラノキを茹でたものはウド同様に味噌によく合う。とくに農家にとって、農繁期に手軽に食卓の一品にできる優れた食材だったにちがいない。 山菜ブームに湧いた1980年頃から山菜を山採りではなく、栽培化のための研究が始まった。その結果タラノキには休眠性があることが判り、この性質を利用して促成栽培ができるようになった。穂木を一定期間低温貯蔵し、日中は22度前後、夜間は10度程度に保った温室で植え込み収穫する。ほぼ30~40日で頂芽が現れ、続いて次々に側芽が伸び出す。さらに栽培品種の育成も試みされた。こうした研究で生まれた「駒みどり」は今でも市場に出廻っている。 タラノキといえば山菜というイメージのせいか、これを観賞用に栽培する人は少ないようだ。しかし、斑入り葉をもつ「フクリンタラノキ」や「キフクリンタラノキ」などの栽培品種も市場で流通している。まさに食べて味よし、眺めて目によし、である。 |
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