大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: ツワブキ |
東京では玄関脇の植え込みによくツワブキを植える。そのフキにも似て、深い緑色をした艶のある丸みをおびた葉は印象的だ。その名が「つやのあるフキ」から来ているのはほぼ間違いない。事実、ツワブキには「ツヤ」とか「ツヤブキ」という方言名が和歌山県や新潟県、福島県から報告されている。 ツワブキは暖地の植物で、太平洋側では福島県、日本海側では石川県以西に分布し、台湾や中国大陸にも分布する。学名はFarfugium japonicum。属名はユーラシア大陸産のフキタンポポの学名Tussilago farfaraの種小名に同根で、フキタンポポをいう古いラテン語によっている。種小名japonicumは、日本産の意味。 江戸時代の著名な儒者にして博物学者でもあった貝原益軒は自著『菜譜』で、ツワブキを「つはと云草あり、その葉茎ふきに似て光あり、秋黄花をひらく、本草には見えず。ふきのごとく皮をさり、よく煮て、久しく水にひたし置て食す、其味ふきのごとし」と書いている。 ツワブキはひと目でキク科の植物とわかる。キク科のいわゆる‘花’は、一見花らしく見えるが小さな本来の花が多数密集した花序(頭状花序)である。この花のように見える花序を頭花とも呼んでいる。キク科は世界でも最大級の‘科’で、日本産植物の全種数5,500種の約4倍に当たる、23,600種(1,590属に分類される)が分類される。 ツワブキの特徴は、すべての葉が根生、すなわち地際から出て長い柄をもつことだ。これは茎にフキに似た葉を生じるノブキやトウゲブキ、マルバダケブキなどとの大きな違いである。 早春に開き、俗に蕗の薹という淡い緑色の小さな貧弱な花茎につくのがフキの花(頭花)だ。雄株と雌雄株があるが、どちらにも目立つ舌状花はない。ツワブキの頭花は明らかに違う。地際の葉の間から伸びる花茎は強壮だし、頭花も両性だ。また花の周辺には一列に並んだ黄金色で人目を引く舌状花が取り囲んでいる。 ツワブキは緑も花も少ない初冬にもフキに類似する常緑の青々とした葉を展開する。その上、花茎の先端に風情もある黄金色の花を開く。葉の様々な斑入り品を別にすれば栽培品種は少なく、野生株そのものもよく栽培されている。その野趣が貴ばれているからでもあろう。
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