大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」 |
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テーマ: ヤブコウジ |
ヤブコウジは、東アジアに広く分布する極小の木本植物で、日本では北海道南部以南の各地に野生する。別にヤマタチバナの名もある。 タチバナといえば、御所の紫宸殿前の「左近の桜に右近の橘」のことを思い浮かべよう。このタチバナは、ミカンの仲間の小木で、黄色のややつぶれた球形のミカンのようなサイズの果実を結ぶ。コウジ(柑子)もミカンの仲間の果実で、紅橙色で直径6cm位の果実がなる。 ヤブコウジの果実も球形だが、直径は5~6mmで1cmにもならない。しかも果実は赤熟する。ヤブコウジはミカンの仲間(ミカン科)とは縁の遠い、ヤブコウジ科に分類される植物で、同じ仲間にマンリョウがある。 ヤマタチバナの名前は、同じ仲間のカラタチバナに似ているために与えられたものだろう。カラタチバナにはタチバナの名もあるが、やはりミカンの仲間のタチバナとは縁もゆかりもない。同様に、ミカンの仲間ではないからヤブコウジの名も変だ。なぜ、タチバナにせよコウジにせよ、まったく異なる植物が同名や類似の名で呼ばれるようになったのだろうか。 この問題は古くから議論されているが、結局のところはよくわからない。西暦922(延喜22)年に深根輔仁が著した『本草和名』などが、中国の植物の正体をあれやこれや詮索したものの、素性がわからぬままに色々な日本の植物に当ててしまったことが混乱の素因だったようだ。 ヤブコウジは学名をArdisia- japonicaという。高さは10cm、育っても30cmほど。極小の木だが、草とも見える。清少納言が、『万葉集』で草としたヤブコウジを正しく木だとしたことは有名だ。葉は長楕円形で、長さ4~12cmで、茎の上方に集まってつく。夏は葉腋に小さな白色で、車状の花冠をもつ合弁花が群がって開く。果実がなるのは晩秋から初冬。東京や近郊では今でも正月用の飾りに、鉢植えにした野生型のヤブコウジをハコネマンリョウの名で売っている。ちなみにマンリョウは樹姿も大きく、果実も若干大きいことが多い。 ヤブコウジとその仲間のカラタチバナは江戸時代に多数の園芸品が作出された。多くは消滅したが、新潟県では培養熱が明治時代にも続いたため、今でもかなりの栽培品種が残っているといわれている。ぜひともそれらを後世に伝えてほしいものである。 |
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