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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: セツブンソウ

セツブンソウ 暖房器具も乏しかった昔の人々にとって、冬春の気候の差はとても大きく意識されたのは間違いない。季節を分ける意味の節分は暦の上では立春、立夏、立秋、立冬の前日をいい、年に4回ある。が、今、節分といえば、冬春を分けるそれをいい、多くの地方では豆まきをする。


  その春の節分の時分(2月3日頃)に咲く可憐な多年草が、セツブンソウだ。まれな植物で、石灰岩地などの落葉樹林下に野生している。


セツブンソウは、厳しい冬を耐え、早春真っ先に地上に姿を現す植物のひとつだ。まだ樹々の葉が展開する前、林床に堆積した落葉の間から、脆弱な感じがする葉や花茎が姿を現す。芽出しのころは葉も落ち葉のごとく茶色をおびていて、見つけるのは容易でない。また樹林に葉が繁る初夏には、花後に残る葉も枯れてしまい、セツブンソウの姿は地上からは消えてしまう。


セツブンソウのように、早春に芽が出てすぐに開花結実し、夏前には地上部が枯れてしまう植物は、カタクリやアマナなどかなりある。その短かな生育期間から、スプリング・エフェメラル(春のはかなきもの)と呼ばれている。


セツブンソウの花茎は、高さわずか10?ほどで、頂端につく花はたった一輪だけだ。地中にある球形の塊茎から出る根生葉が数葉あり、長い柄をもち、モミジの葉のように5または6つの裂片に深く裂ける。花茎の上方には根生葉に似て柄のない葉がひとつ出る。


セツブンソウを印象付けているのは、葉がまだ完全に展開する前に開く、その可憐な花といってよい。がく片は花弁のようになり、白色で青紫色の筋が入り、開くと直径は2?位になる。本来の花弁は退化して、先が二又に分かれた棒状の蜜腺と化している。多数の雄しべがあり、その中央に数個の雌しべがつく。


セツブンソウはキンポウゲ科の植物で、その仲間(セツブンソウ属)には7種ほどがあり、ユーラシアの温帯に分布する。日本に自生するのはセツブンソウだけで、福島県以南に分布する。学名はEranthus pinnatifidaという。セツブンソウ属には白花のほか、黄花を開く種もある。また種間の交配で作出された園芸種も知られている。園芸店では、セツブンソウを目にする機会は少ないが、黄花をもつ交配種のキバナセツブンソウがよく売られている。




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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物- 2005年2月4日、大場秀章先生が中心メンバーの調査チームがネパール王国のムスタン地域で行った現地踏査の成果をまとめた著書「ヒマラヤに花を追う-秘境ムスタンの植物-」の出版を記念して、講演会が開催されました。
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。