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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: カラスウリ

カラスウリ  晩秋の山野の散歩ではそれまで存在にまったく気付かなかった植物に出会うことがある。夏の間重たそうに葉を茂らしていた落葉樹がすっかり葉を落としてしまうからだろう。

 カラスウリもそのひとつだろう。木にからまり、その朱色をしたやや大きめの果実がとても目立つ。クリスマスリースの飾りにしてもおかしくない、綺麗な果実だ。

 カラスウリは決して目立たぬ植物ではない。その花も見事なものだが、夕刻から咲き始めるところが変わっている。早寝の人には無理かも知れないが、注意してみると日本にもカラスウリのように夕刻から花が開き始める植物は他にもある。その名もずばりのユウガオ、それに帰化植物のオオマツヨイグサもそうだ。白色や淡いクリーム色の花冠をもち、しかも芳香がある。これらの色は闇に浮き出てみえ、夜目にも目立つのである。

 カラスウリの花は白色で5個の花弁をもつが、花弁の基部は合着して長い筒状になっている。花冠の先は卵形あるいは長楕円形の裂片となり、縁がナデシコやセキチクの花のように細かく糸状に分裂している。カラスウリの花は翌朝には萎む。寿命は1日というはかない花だ。

 すでに書いたように、夜咲きの花は白色系であるだけでなく、良い香りを発し、しかも長い花筒をもつのである。こうした共通性はこの夜咲きの花にやってくる蛾の仲間が蜜を吸い易いように花のかたちや習性を合わせているためだといわれている。

 熱帯ともなると昆虫や他の動物も暑い日中は避けて、夜を待って行動を開始する。訪花も夜になる。植物の側もそれに対応して、夜に咲く花がとても多い。熱帯の夜は芳香が漂うといわれるがその理由もここにある。

 カラスウリは学名をTrichosanthes cucumeroidesという。東北地方南部から四国、九州に分布する。中国にも分布する。さて、その1日で萎んだ花は、受精に成功すれば果実へと成長する。若い果実は楕円形で、全体に緑色だが濃淡の縞があり、まさに小さなウリにそっくりである。それが熟すと、長さ5~7cmほどになって、果色も朱に変じる。カラスウリの果実には小鳥やカラスにつつかれて裂けているものが見つかる。中に種子が入っているが、そのかたちがカマキリの頭によく似ている。また、「奴」の字にも似てみえたらしい。カラスウリにムスビジョウ(結び状)の方言があるのは、この種子のかたちからきている。昔は地中にできる塊根から澱粉を採取して天瓜粉(テンカフン)の代用にした。天瓜粉は赤ちゃんが使った「汗知らず」の原料である。また果肉はシモヤケに効くといわれている。結構、役立つ植物でもあるのだ。

 果実が黄色に熟するキカラスウリも夏の夕方に白い花を開く。花冠裂片はカラスウリより幅広く倒卵形で、縁は同様に細かく糸状に分裂する。果実は、球形から卵円形で、やや大きく長さ7~10cmほど、柄は長さ3~5cmほどである。北海道(奥尻島)・本州・四国・九州・奄美大島に分布する。種としては朝鮮から中国・ベトナムにも分布する。塊茎からとった澱粉が天瓜粉である。種子は薬用になる。果肉は乾燥すると甘い。中国の薬用植物の「か楼」である。

 私はカラスウリの朱色の果実をみると秋が深まったことを実感する。いつまでも姿を消すことなく残って欲しい野生植物のひとつにカラスウリを数えている。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。