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大場秀章先生の「草木花ないまぜ帳」
 
 
テーマ: ハボタン

ハボタン  冬眠という言葉があるが、人間冬は結構忙しい。少なくとも年末・年始はそうだ。来し方を振り返り、行し方を模索する。とくに今年(2004年)は何と多事多難な年であったことだろう。数多くの台風が本土を通過し、新潟では地震による災害が加わった。最先端の科学技術をもってしても自然の猛威は防げないが、自然を侮る風潮が災害を大きくしているのも事実である。被災された方々のことを思うと胸が痛む。


 今月は正月には欠かせない植物、ハボタンについて書いてみたい。

 植物への関心が高い日本ではハボタンが牡丹と同類とみる人は皆無だと思われるが、これがキャベツの仲間であることは存外知られていない。より正確にいうなら、青汁の原料ともなるケールの栽培品種で、英名のひとつはflowering kaleで、その意味は‘花のケール’である。

 キャベツやケールはヨーロッパ西部の大西洋沿岸地方に生える野生種から作出されたと推定され、寒さに強く、冬も葉が枯れず生々としている。ケールからキャベツのように葉が密集して球状に巻く型、茎が肥大化したコールラビ、花が多数密集してつくブロッコリーやカリフラワー、腋芽が変形してキャベツのようになる芽キャベツなどが生まれた。

 作られた栽培品種のほとんどが野菜で、ハボタンだけが観賞用に改良された。しかもその改良は日本を中心に行われた。「花より団子」というが、「団子よりも花」を愛でる人が多い日本人の花好きを象徴しているようだ。ケールやキャベツの仲間であるハボタンは江戸時代にオランダから移入された。渡来年は1778(安永7)年といわれる。ちなみにキャベツ(ケールである可能性もある)は1709(宝永6)年に出版された貝原益軒の『大和本草』に載っているので、それよりも以前なのは確かである。

 ハボタンを観賞するのは冬なので、その季節雪に見舞われる日本海側はハボタンには向かない。栽培も園芸品種の改良も太平洋側の地域が主流であった。

 ハボタンには葉に皺がほとんどない系統と皺の系統がある。皺がない系統としては江戸時代から続く古い系統の‘江戸ハボタン’(東京丸葉)系があり、葉はキャベツ様で、縁が波状にはならず、耐寒性も強い。最近の園芸品種に中心部分(芯)が紅紫色の‘瀬戸の舞姫’や白色の‘晴姿’がある。‘大阪丸葉系’はこれに似るが葉の縁が波状になるもので、‘半ちりめん’とも呼ばれている。白色で芯がピンク色の‘つぐみ’や‘白たか’がある。‘名古屋ちりめん系’は皺の多い系統で、とくに関西でよく栽培される。その容姿が鳥の巣を連想させることから、‘すずめ’や‘ちどり’など小鳥の名をともなう園芸品種が多い。‘さんご系’はロシアから入ったケールと日本の丸葉系の交配から生まれた一代雑種で、エンダイヴのような深く切れ込んだ葉と色のコントラストが海中のサンゴ礁を連想させる。白系統の‘白さんご’や‘白かんざし’紅色の‘紅さんご’や‘紅くじゃく’などが市場に出回っている。

 キャベツは世界中どこでも栽培されているので、その仲間のハボタンも世界の至るところで植えられているよう思ってしまうのだが、そうではない。ハボタンは日本以外ではほとんど注目を集めておらず、目下のところ日本独特の園芸植物のようだ。ハボタンの栽培に向く地域は日本以外にもある。ぜひハボタンも国際的な園芸植物へと成長してほしいと思う。

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Profile:

東京大学名誉教授
理学博士
大場 秀章 先生
(おおば ひであき)
東京大学名誉教授。植物分類学の権威であり、ヒマラヤに生育する植物研究の第一人者の大場秀章先生が、植物に関する興味深いコラムを毎月お届けします。大場秀章先生には、当社の緑育成財団が支援している「ネパールムスタン地域花卉資源発掘調査」の中心メンバーとしてご指導いただいています。